僕の右手の神Seven

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◆◇◆◇◆◇◆◇ 親族でも主賓でもないから礼服ではないけれど、黒のスーツにシルバーのネクタイを選んでみた。クリーニングのタグを取り忘れないように注意しなくちゃな。 上着に右手を通そうと腕を上げた時に、ズキっと確かな痛みを感じた。最近多いけれど、いよいよ五十肩いや四十肩なんだろうか。確かに運動不足だしな。 痛みが出ないように、丁寧に体を動かして右手を通した。しっかりと玄関に鍵を掛けて、待ち合わせの駅に向かう。 四十肩にはどんな運動がいいのかなぁなどと考えながら、ポチらポチらと歩いているとシックな黒のスーツを纏った小林先生の姿が見えた。 キレイだ。 もう、超キレイだ。 小林先生が僕を見つけて、小さく手を振ってくれている。 デートの待ち合わせをしている、恋人同士みたいだ。 あー、もう幸せだ。 「お待たせしました」 「いえいえ、私も今来たところですよ。清水先生、カッコいいですよ」 「いや、あの、小林先生もとても、あの、綺麗で……」 ダメだ…… こんな時、どうやって女性を褒めていいのかわからない。 あ〜、もうほんと情けない。 そんな自己嫌悪で低空飛行な気分も新郎新婦の入場が始まった途端にぶっ飛んだ。 荘厳な音楽が流れ、両開きの扉が大きく開かれ、スポットライトを浴びた中村さんが小早川君の隣でどんな女優さんよりも素敵に微笑んでいた。 すごく幸せそうだね。 そう思い、ふと小林先生の方に目線を送ると、瞬きもせずに中村さんを真剣に見つめている姿があった。その目には涙が浮かんでいる。 なんて、綺麗なんだろう。 この一瞬を僕は心のアルバムにしっかりと保存した。 僕たちのテーブルの横を通る時に、中村さんが僕にウインクをして背中を見せるように身体を捻った。 背中が大きく開いたウエディングドレス。乳癌の手術の時に乳房再建で大きく切り開いて背中。中村さんのどうしてもこのドレスを着たいという願いを叶えるために、みんなで頑張った。今日、その願いが叶えられ、愛する人と一緒になった瞬間をみんなで祝えた。本当に良かったね、僕も心から嬉しいよ。
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