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中学二年生の時に志築悠真くんと初めて同じクラスになった。特に目立たないけれど、優しくて、頭の良い男の子。もちろん香奈の方が模試の成績は良かったし、頭が良いといっても北三中でのことだから、全国的に見ればどうなのかなんて分からない。でも真面目で優しそうな彼の雰囲気を、何だか良いなと思った。
「――新川さん、星、好きなの?」
ある日、図書館で借りた星座の大判本を休み時間に開いていると、樹里子と立ち話をしていた志築くんが話しかけてきてくれた。先に志築くんと仲良くなったのは樹里子の方だった。
「あ、うん。――お姉ちゃんの部屋からね。見える星空が綺麗で、好きなの。好きだから名前くらいは覚えようかな〜、なんて」
「そうなんだ。好きな星とかあるの?」
「どうだろう。無くはないかなぁ」
お姉ちゃんの部屋からいつも見える星のことを、頭の中に描く。
「僕はあるよ。――北極星」
「あ、私も! 北極星」
あ、そうなんだ――って微笑む彼の顔をから、しばらく視線が逸らせなかった。しばらく経って、どうしたの? と志築くんに言われるまで、私の時間は止まっていたのだと思う。「なんでもない」と言ったけれど、「なんでもなく」なんて、全然なかった!
私を取り巻く世界はひっくり返って、中学二年生の新川美智は真っ逆さまに落ちていったのです。――きっと、はじめての恋に。
世界はひっくり返っても北極星は北の空に輝いていた。今までよりもずっと明るく。私の人生の道標みたいに。
お姉ちゃんが志望大学を悩んでいて、同じタイミングで高校に進学する私も志望高校を決めないといけなかった中三の夏、ふと思った。――あれ? 志築くんはどこの高校を受けるんだろう? って。香奈ちゃんは絶対に進学校を受けるに決まっている。それならその次くらいに成績の良い志築くんだって、どこかの進学校を受験するのかもしれない。もしそうならどうあがいても高校は別になってしまうだろう。でも、高校は別々になっちゃうかもしれないけれど、会いたくなればきっとすぐに会えるはず。この時は、そんな風に思っていた。
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