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志築くんとは中学二年生の途中から仲良くなって、樹里子も含めた六人ほどのグループでよく喋るようになった。好きだったけれど、北三中ではあまり恋人として付き合っているカップルも多くなくて、志築くんと彼氏彼女の関係になるきっかけも何もないまま、私たちの中学生活も終盤戦に突入していた。
やがて夏休みが終わって、中学生最後の秋が始まるころ、私は志築くんの志望校を知ることになる。それは北の国――北海道にある高校だった。ずっと遠く、もう会えなくなるくらいの遠い場所。
「お父さんの仕事の関係でさ。来年から北海道に引っ越すことになったんだ。みんなと離れ離れになるのは寂しいけど、やっぱり、こればっかりは仕方ないのかなって」
「――さびしくなるね」
「うん」
行かないで――って言えなかった。ドラマでも、漫画でも、ヒロインなら言いそうな言葉。でも、そんなこと言ったって、子供じゃどうにもならないわけだし、言っても仕方ないし、志築くんを困らせるだけだから、言えなかった。
冬が始まるころ、どうしても我慢できなくなって、志築くんに電話を掛けて、夜の公園へと呼び出した。電話のコールボタンを押すまでに一時間くらい躊躇したんだけど。お母さんに「コンビニに行ってくる」とか適当な理由を言って、コートとマフラーを着込んだ私は寒空の下、夜の公園へと駆け出した。
公園に辿りついて、吐いた息は白かった。ほわほわと浮かんで街灯が照らす冬の空へと消えていった。息を切らせた私に、先に到着していた志築くんは「大丈夫?」って首を傾げた。
ブランコに腰掛けて揺らしながら、何でもない話をした。
好きなのとか、付き合ってくださいとか、北海道に行かないでとか――頭の中ではドラマみたいな言葉が浮かんだけれど、結局、そんな言葉を口にする勇気は私にはなくて、「ちょっと勉強で行き詰まって、気分転換したかったんだ」なんてわざとらしい言い訳をしながら、受験勉強の話とか、友達の話とか、M-1グランプリでどのコンビが優勝しそうだとか、レコード大賞は誰が取るかなとか、そんな何でもない話をした。
寒空の下で三〇分ほどそんなおしゃべりをしていると、少しの間、話題が途切れて、二人を静寂が包んだ。そっと右隣を見ると、ブランコの鎖を手袋で掴んだまま、志築くんは真っ直ぐ前の星空を見上げていた。北の空を。
「――何見ているの?」
「――北極星」
「あ、本当だ。北極星」
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