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「いらっしゃい! あ、志築くん、卒業式以来だねー。元気してた? 今は北海道」
「ご無沙汰でーす。 あけましておめでとうございます。 北海道ですよー」
香奈の声に答える男の子の声。カメラがオンになり、その顔がアップになる。志築くんだっ!
思わずダブルクリック。志築くんの顔が画面いっぱいに拡大表示される。――あ、なんかヤバい。ちょっと自分の行動が恥ずかしくなって、元の表示に戻した。
久しぶりに見る志築くんは、ちょっと大人っぽくなっていて、でも優しそうな顔立ちも柔らかな声も、何も変わっていなかった。それだけでちょっとニヤけてしまう。
ああ、話したい。志築くんと、喋りたい。二人で喋りたいよ。
「じゃあ、まずは新年を祝って乾杯からやりましょう。みなさん手元のグラス……かどうかはしらないけれど、何か持ってください〜」
「はーい。私は湯呑みで生姜湯だよ〜」
全員がそろって香奈が乾杯の音頭を取る。樹里子がおどけて乗っかった。やがて「カンパーイ」の発声。そして新年会が始まった。
Zoomの新年会は久しぶりにみんなの顔が見られて、なんだか懐かしくて、嬉しい気持ちになる。なんといっても志築くんだっている。特に発言をしないままニコニコと微笑んでいる志築くんをぼんやりと眺める。
話しかけたいけれど、Zoomって誰かに話しかけたらみんなに聞こえちゃうんだよね。これが普通の新年会なら、志築くんの近くに行って「元気だった?」って話しかけるんだけど、みんなの前でそんなこと出来ないし、すごくもどかしい。
ふと思い立ってノートパソコンの脇からスマートフォンと北極星のストラップを手繰り寄せる。そっとスマートフォンのケースにストラップを取り付けて、みんなには不自然に思われない程度に、そっとカメラの前に掲げた。私のZoomビデオにスマートフォンからぶら下がって揺れる北極星が映る。
ちらりと志築くんのウインドウに目をやる。なかなか気づいてくれなかったけれど、しばらくすると彼もビデオ画面の中にスマートフォンを写り込ませた。――そこにはちゃんと、私が二年前にプレゼントした、北極星が輝いていた。
画面下の中央が通知を示すようにオレンジ色に光った。「何だろう?」と、よく見るとチャットの着信通知だった。クリックして開いてみる。主催の香奈が皆に何かのお知らせでも送信したのだろうか。
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