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勘違いでもそれを信じている限り、それが事実だ。
「どうしたんだよ、急に」
ホモだと言われるのは仕方ないとは言え、見境ないという言葉は見過ごせない。
まるで僕が節操なしみたいじゃないか。
大体見境ないのはお前の方だろうと内心毒づいていると、藤堂は僕の質問に鼻先で笑った。
「だってそうだろう、お前、あの男のこと好きなんだろう?」
「あの男?」
「芹沢だよ、お前の大好きな、あの芹沢」
唾棄するように吐き出したその名前に僕は目を丸くした。
確かに芹沢さんのことは好きだが、彼が言う好きとは意味も種類も違う。
自分の芹沢さんへの好意をそういった目で見られたことがひどく不愉快だった。
「別に芹沢さんはそういう好きじゃない」
「嘘吐け。お前はあの男と話す時、いつも目をキラキラさせて、まるで女が男に媚びるみたいに見詰めてる。女ならまだしも男のお前が男に、気色わりぃ。吐き気がする」
確かに芹沢さんと話すのは楽しいからそれが顔に出ているのは認めるが、しかしそれでもひどい言い様だ。
「媚びているわけじゃないよ。ただ芹沢さんとの話は楽しいから自然と表情が緩むだけだ」
「俺との時はそんな顔しないくせに……っ」
吐き捨てるように呟いた藤堂の言葉に僕は目を瞠った。
まさかこの男は嫉妬しているのだろうか。
まさか、と思いつつも、それなら彼の異常なまでの不機嫌さにも理由がつく。
遊びの僕へそんな感情を抱くとは驚くと同時に、あまりの身勝手さに腹立たしくもあった。
こういう子どもはいる。
特に大事にしている玩具ではないが、人にあげるとなると途端に泣き喚いて必死にその玩具を抱え込む、独占欲の塊を剥き出しにした子ども。
子どもなら微笑ましいが、成人した男がこんな幼稚な独占欲を振り翳すのだから失笑しか出てこない。
「でも残念だったな、あの男、彼女がいるみたいだぞ」
「え」
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