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初耳の情報に思わず声を上げた。
確かにあの人柄と精悍な顔立ちを考えれば彼女がいてもおかしくはない、むしろいないほうがおかしい話だが、それでも話していて女性の影を全く感じない人だったので驚きだった。
「……そんなにショックを受けて、やっぱり好きなんじゃないか」
僕の驚きをショックと解釈した藤堂の目は、まるで節操なしとでも蔑むような暗い鋭さを宿していた。
確かにショックと言えばショックかもしれないが、それは芹沢さんに彼女がいたことではなく、そのことを本人の口からではなく藤堂から口から知ったことに対してだ。
この男は勘違いが多く、時々どこから訂正していいものか頭を抱える。
どう答えたらいいものか思いあぐめていると、些か乱暴に床に押し倒された。
こちらを見下ろす瞳は暗く淀んでいるのに、凶暴ささえ感じさせる眼光が僕を射抜く。
こんな目で見られたのは初めてだった。
彼がいつも僕に向けるのは侮蔑と歪んだ愉悦を孕んだ視線だが、今日は何かが違った。
子どもが癇癪を起して泣きだすような幼稚な凶暴さがそこにはあった。
噛みつくようなキスを皮きりに、彼はいつもより乱暴に僕を抱いた。
いつもみたいに僕の羞恥を煽るような言葉はなく、彼は無言だった。
彼が口から吐き出すものといえば、内心の興奮を語る饒舌な荒い吐息だけだった。
彼は痛みの中に快感を巧みに滑り込ませ、何度も僕に絶頂の悲鳴を上げさせた。
いつもより激しいそれに、ぐったりとなった僕の耳元で彼はそっと囁いた。
「忘れるなよ。お前みたいな暗くてつまらない奴を相手にしてやるのは俺だけだ」
その時の彼は至極楽しそうに喉で笑っていたが、なぜだかその笑いが嗚咽に聞えた。
*****
その日以降、芹沢さんと話している姿を藤堂に見られた日は必ず乱暴に抱かれた。
それは僕を罰するというよりも、彼の中の余裕のなさがそうさせているように感じた。
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