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乱暴なキスや愛撫の端々に切羽詰まった感じが滲み出ていたし、荒い吐息には時々泣き出しそうな気配さえあった。
この悲痛ささえ感じさせるセックスは必ず暗くした部屋の布団の中で行われた。
暗闇の中に作り出された二人分の狭い闇の空間は、二人の汗と熱で卑猥な熱気と湿りに満ちていた。
体を濡らす互いの唾液や精液、汗は、皮膚と皮膚が密着するたびに互いの境界を曖昧にさせた。
繋がった部分から全身に伝う彼のグロテスクな脈動は、僕の中心である鼓動を容易に飲み込んでしまう。
淫猥な密空間の中での支配的な一体感。
全てがこの布団の中で完結しているような錯覚に陥り、布団の外の世界など想像すらできなくなる。
そんな空間で藤堂は僕の耳に暗い声で囁く。
「お前を愛してやれるのは俺だけだ」と。
それは愛の言葉なんて甘いものではない。
もはや重く暗い呪詛のようで、布団の中の営みが、セックスと言うより何か儀式めいたものに思えてくる。
芯までぐずぐずに溶けた頭は、彼の馬鹿げた不遜な勘違いを一笑に付するどころか、まるでそれが唯一の真実であるかのような錯覚に陥ってしまう。
唯一神に包み込まれるような安堵と恍惚すら覚えてしまうこの状況は、洗脳に近いものがあった。
美紀の顔や声、香りが五感に過っても、泥のように重い快感がそれらを掻き消して、真実を霞ませていく。
「……藤堂は教祖様に向いているかもね」
ようやく儀式のようなセックスがすみ、現実と布団の世界が境界を失くした事後に、ぼそりと呟いた。
隣で上半身だけ起こして煙草を吸う藤堂は、僕の言葉に少し目を丸くしたが、すぐに傲慢な笑みを浮かべ僕の頭をガシガシと荒い手つきで撫でた。
「信者はお前だけで十分だ」
この根拠のない自信。
やっぱり彼は教祖に向いている。
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ある日、芹沢さんに呼び出された。
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