375人が本棚に入れています
本棚に追加
藤堂のでたらめの妄想だと言いたかったが、証拠画像を送られているのだから言い逃れはできない。
でも尊敬する芹沢さんに気持ち悪がられたくなかった。
どう答えるのいいのか思いあぐねる。
だが、長い沈黙は肯定でしかない。
「……やっぱり本当なんだな」
芹沢さんが落胆の声で言った。
何か弁解したいが、都合のいい言い訳も思いつかず口噤んでいると、突然、芹沢さんが頭を下げた。
「……っ、すまない! 俺が不甲斐ないばかりにっ!」
「……え?」
予想外の謝罪に僕は困惑した。
なぜ僕と藤堂が付き合っていることが芹沢さんと関係するのか全く分からなかった。
「え、いや、芹沢さんは全然悪くないですよ」
「いや、俺がもっと早く樫原の気持ちを受け止めていれば……」
「僕の気持ち?」
悔やむように言う芹沢さんの言葉に、僕は首を傾げた。
「別に同性愛者に偏見があるわけじゃない。でも、やっぱり俺にとって樫原は気の合ういい後輩で、そんなお前を恋愛対象として見ることはできなかったんだ」
「え! い、いや、ちょ、ちょっと待ってください!」
至極申し訳なさそうに話す芹沢さんに、僕は思わず大きな声を上げた。
「え、ぼ、僕の気持ちって、え、っていうか、恋愛対象って……」
「樫原の言動の端々から薄々は感じていたんだ。ただ、俺には彼女もいたし、男同士というのはやっぱり抵抗があって……」
自分の不甲斐なさを恥じるように目を伏せる芹沢さんに冗談の類は全く感じない。
彼は本気だ。
本気で、僕が自分のことを好きと思い込んでいる。
ど、どうしよう……。
勘違いは勘違いだが、藤堂のように傲慢さがなく、むしろ自責の念に満ちたそれは、藤堂のような不快さはない。
そんな勘違いをさせてしまってこっちが申し訳なるほどだ。
早く彼の誤解を解いて、自責の念から解放してあげなければと思い口を開く。
最初のコメントを投稿しよう!