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そこからはあれよあれよと事が進み、気付けば本来男の僕にあるはずもない処女を喪失してしまった。
元々なかったものだ、くれてやれ! なんて開き直ることは当然できないのだけど、不思議と僕らの体だけの関係は未だ続いている。
*****
『彼氏が浮気しているかも……』
語尾に悲しげな顔文字をつけた、美紀のSNSの投稿に僕は心臓が飛び跳ねた。
彼女とは今日会ってきたばかりだ。
どうしよう、自分の言葉は何か不自然だっただろうか、と部屋をぐるぐる歩き回りながら今日の自分を振り返る。
いやどこにも不自然さはなかったはずだ。
確かに昨晩、藤堂とはまた寝た。
おかげで首元にキスマースを残され、それを隠すために今日はあまり好きではないタートルネックを着るはめになった。
けれどそのおかげでキスマークはしっかり隠れていた。
それに彼女と会っている時は彼女のことしか考えないのだから、彼女を不安にさせる言動をするはずがない。
そもそも僕には藤堂との関係について愛もないので、罪悪感もない。
普通の浮気なら、後ろめたさが無意識に滲み出て相手にばれるのだろうが、僕にはその心配はない。
それにしても美紀は意外と僕のことをしっかり見ているのだなぁ改めて感心していると、インターフォンが鳴った。
友達の少ない僕の家に訪ねてくるのは、大体、宅急便かあの男だ。
僕は玄関を開けた。
「寒いんだからさっさと出ろよ」
眉根を寄せて不遜に言い放つ藤堂がそこに立っていた。
「なんか温かい飲み物を淹れてくれ」
外の冷たい冷気と共にずかずかと中に入って来た藤堂に僕は溜め息を吐く。
「悪いけど今出せるあたたかいものは紅茶くらいしかない」
「はぁ? 普通、コーヒーとか常備しとくだろ。つーか、俺がコーヒー好きなの知ってるんだから常備しておけよ」
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