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使えないな、とでも言いたげに露骨に眉を顰める藤堂にいらつきはするものの、もう慣れた。
「急に来るからだろう。いつも言うけど来る前に連絡をしてくれ」
こっちだっていつも暇ではないし、彼女と会っている時だってあるのだ。
というか、来訪前の連絡は常識ではないだろうかと思ったが、この男に常識を説いても無駄なことだ。
「仕方ないだろ、急に会ってやろうかって気持ちになるんだから。今日だって本当は彼女と約束があったのにお前に会ってやってるんだから感謝しろよ」
なぜ彼の気まぐれに感謝しなければならないのか、もっと彼女さんを大事にしてやれよとか、約束は守れよとか言いたいことはたくさんあるが、どうせ何一つ彼の頭には届かない。
だからそれらの言葉を溜め息に込めて吐き出すことで終わらせるようにしている。
この男と関係を持ち始めて身につけた自分なりのスルースキルだ。
「まぁこの際飲み物はいいからさ、さっさとヤッて体を温めてくれよ」
藤堂は意地悪く笑って僕を廊下の床に押し倒した。
服越しでも床の冷たさが背中に染み入ってきた。
「ここは寒い。せめて居間に行こう。それに玄関の近くじゃ万が一声が漏れたら……」
ちらりと頭上の玄関へ顔を向けるが、すぐに藤堂の手で彼の方へ向き直されてしまった。
「いいじゃん、そういうのも。というか、お前が声出さなければいい話だし」
それができないのを知っていながらにやにやと笑う目の前の男が憎らしい。
本当に性格が悪い男だ。
外見については褒める箇所はいくらでもあるのに、中身についてはひとつも見つからない。
あまりお近づきになりたくない類の人間だ。
ではなぜこうした男とこういった関係を続けているのかと言えば、それは気持ちいいからという至極簡単な理由がないわけではないが、一番はセックスの練習だ。
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