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恥ずかしい話、二十一歳にもなって俺はまだ性的経験のないいわゆる童貞だった。
美紀という彼女がいながらまだセックスをしていないのは、経験不足からくる失敗を恐れてのことだった。
けれどまさか美紀がいながら他の女の子で経験を積むわけにはいかないし、AVはヤラセだらけで勉強にならないし、八方塞がりだった。
そんな時、タイミングよく現れたのが藤堂だった。
男同士とはいえ、藤堂とのセックスは勉強になる。
場数をこなしているだけあって、セックスのテクニックや、最中の動き、雰囲気づくりまで、彼は完璧だった。
男として女のようにイカされるのは屈辱だが、考えようによっては彼女の立場に立ってセックスを学んでいるのだと思えば悪くはない。
人は経験したことしか分からないものだから、女の立場でセックスをするのは実は一番彼女を気持ちよくさせる方法を知れるのではないかと思う。
もし、藤堂が純粋に僕を好きな同性愛者で、性格がいい人間だったら、もちろん僕だってこんな関係は持たなかっただろう。
けれど彼はすこぶる性格が悪く、しかも僕を愛していない。
完全に興味本位の遊びだ。
そして僕の方といえばセックスの練習台として彼と関係を持っている。
お互い様ということだ。
首筋に滲んだ痛みに顔を歪める。
気付けば僕は服を脱がされていた。
氷のように冷たい床に押し付けられているが、背中以外は熱を帯びている。
僕の上に覆いかぶさって見下ろす彼の目がこちらを不機嫌そうに見ていた。
「他のこと考えているだろ?」
「……別に」
「嘘を吐くな」
そう言ってもう一度首筋を噛まれた。
彼の言動は勉強になるが、美紀にはこんな痛いことはしないようにしようと僕は頭のノートにメモをする。
大切な人に痛みは与えたくない。
全身に甘い感覚だけを覚えて欲しい。
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