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そして挨拶をすることもなく、ゼミ室の窓側に並ぶパソコンの席に、ドカッと腰を降ろした。
不機嫌なのは明らかで、パソコンのキーボードを打つ音や、椅子から立ち上がる音、全ての動作がわざとらしいほど荒く全ての物音にその苛立ちを滾らせていた。
それは耳障りだったが、この男のために出ていくのも癪で、そのまま芹沢さんと話し続けていると、突然、藤堂がこちらを振り返って大きな溜め息を吐いた。
「あのさ、ここゼミ室なんだけど。普通、勉強する部屋だろ。おしゃべりする部屋じゃないから。俺、ゼミの課題してるからすごく邪魔なんだけど」
藤堂が言ったとは思えないほど常識的で正論だった。
相手が藤堂でなければ素直に謝れたが、非常識の塊である彼に指摘されるとこちらが悪いとは言え謝る気になれない。
そもそも、藤堂の方こそ友達をゼミ室に連れて大声で下品な話をしているくせに、人のことを言えた立場じゃないだろう。
むっと口を結んでいる僕とは違い、芹沢さんは大人で「すまない、部屋を変える」と一言謝った。
大人の対応だなとまた尊敬の念を募らせながら僕は芹沢さんとゼミ室を後にした。
*****
「ホモって見境ないんだな」
「は?」
僕の部屋にやってきた藤堂は機嫌が悪く無口で、居間に腰を降ろしてやっと口を開いたと思ったらこの言葉だ。
彼の言葉はいつも脈絡というものがない。
「どうしたんだ? いきなりホモの話なんて……」
「お前の話だよ、お前の!」
コーヒーを彼の前に差し出す僕を藤堂がキッと睨みつけてきた。
その眼光はもちろん、彼のとんでもない発言にも驚き目を見開いた。
自分には美紀という歴とした彼女がいるし、男に恋愛感情を抱いたことはただの一度もない。
しかし考えてみれば、藤堂の中では僕は彼のことが好きということになっているのだから、事実は違えどホモと思われても不思議ではない。
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