尾久の栄依子ちゃんシリーズ 栄依子ちゃんのお正月

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お参りを終えると仲見世で遊ぶ。 大変な人込みだが 姉妹はおもちゃ屋がどこにあるのかよく心得ている。 それぞれもらったばかりのお年玉で 好きなものを買うのがお楽しみなのです。 栄依子は、おもちゃ屋の店先で 浅草に来るたびに見ていた5センチほどの人形と 真っ赤な木製のリンゴで迷っています。 お人形は、男の子と女の子対になって マッチ箱ほどの箱に ちょこんと並んで入っています。 鈴を張ったようにぱっちりした目。 首、ヒジから先、膝下は 土を焼いた上に丁寧に胡粉が塗られ 美しい色白の肌をしています。 男の子も女の子も、つややかな黒髪の おかっぱ頭をしています。 「なんてかわいい子だろう」 栄依子は指先で、ちりめんに包まれた 胴体を触ってみると 綿が入っているのかふわふわしています。 手足の関節は針金で繋がって 和紙で覆われているので、 曲げることができるのです。 赤い木製のリンゴは、 本物の紅玉リンゴにそっくりで 栄依子の両手にすっぽり収まる大きさ 上下にパカリ、と開きます。 中には豆粒ほどの小さなティーセットが入っていて リンゴはテーブルになり、 その上に並べることができました。 どれにも桃色の花の模様が描かれていました。 栄依子は、迷って迷って決められない。 「お年玉持ってるんだから、両方、買ったら?」 待ちくたびれた敏子が、 栄依子の毛元のがま口を覗き込むようにして言いました。 「そんなこと、していいかしら」 「いいわよ、お正月なんだから」 とうとう、二つとも買ってしまった。 買ってしまってから ちょっと後ろめたくなります。 「敏子ちゃんにも貸してあげる  一緒に遊びましょ」 「うん」 敏子は、土人形によく似た くっきりした二重瞼の大きな目を 細めて笑いました。
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