40. 博物館を見学する

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 右手側の壁沿いに伸びる階段を上がっていく。金色の階段には金色のカーペットがかかっているようで、靴の下の感触が柔らかかった。  階段を上がりきると、さきほど下から見上げていたバルコニーに立つ形になる。二階はずいぶんと奥行きがあるようで、入り口に背を向ける形でさらに奥へと進むことができた。  二階の奥は長方形の空間だった。あいかわらず一面が金色で、剛の他には誰もいない。  ホールの空間は二階までで天井に突き当たっていたが、奥はさらに吹き抜けになっている。三階、四階、五階――それ以上数える気にはなれないが、とにかく天井ははるか高くにある。  剛が右手側に目をこらすと、壁際に通路らしきものが見える。  扉はそもそもないのか、それとも開いているだけかは分からないが、ともあれ通ることができそうだ。  一番手前にある通路を進みながら、先の部屋をのぞきこむ。  そこにはようやく金以外の色があった。様々な色をしたモノがあちこちに浮いている――いや、金色の台座や額縁に据えられている。  どうやら展示室にたどりついたようだ。  一面が金色の景色の中で自然な色をした展示物はいやに目立って見え、剛は現実感を覚えて安堵していた。  そのまま近くの展示物に歩み寄る。胸ほどの高さの四角い台座に飾られているのは、エアコンか何かのリモコンに見えた。  姉貴のスマホもここにありそうだな、と楽観した剛は頬を緩める。  自分のスマホのアプリを確かめると、目的地のマークはすぐ近くにあった。  剛はアプリが示す方向を振り向き、前に進みながら通りかかった展示物をチラチラと確認していく。マイクの付いたヘッドセット、赤白黄色のビデオケーブル、剛には用途の分からない四角い機械など、とにかくここには電機機器らしきものが展示されているらしい。  そうしてとうとう、剛は見覚えのある平たくて四角いものにたどりついた。 「あった……」  思わず独り言を漏らす。  目の前の台座に置かれているのは、間違いなくスマートフォンだ。画面を上にして寝かされているが、背面に赤いケースが付いていることは分かる。  右手に持ったままの自分のスマホの画面を見ると、現在地と目的地のマークはほとんど完全に重なっている。  姉のスマホだ、間違いない。
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