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2. 雨宿りする
ほどなくして、剛は開けた場所にたどり着いた。
山登りの休憩スペースといった感じで、丸太を組んで作られた東屋だ。二十人は入れそうな広さがあって、平たい屋根の下には木のテーブルとベンチがしつらえられている。
ここが電波の源らしい。
一安心と息を吐くや、頭に何か冷たい感触がする。
見上げれば曇天模様の空。頭上を覆った黒い雲の間から、ぽたりぽたりと大粒のしずくが落ちてくる。
剛は慌てて屋根の下に入った。
ベンチに腰を下ろすや否や、ザーザー降りの雨に囲まれることになった。間一髪、ここにたどりついていなかったらびしょぬれになっていたろう。不幸中の幸いだ。
剛が息をついてベンチに座りなおしたそのとき。
真ん中のベンチに誰かがいるということに気づいた。今まで見のがしていたのは、こちらに向けられた後ろ姿がベンチの木の色になじむキャラメル色の髪だったからだろう。
背中まで覆い隠す長い髪。ということは女の人だろうか。それにしてはシルエットが大きい気がするが、遠近感が分からないだけか――
『ピピピピ! ピピピピ!』
剛は飛び上がった。慌てて手の中のスマホをお手玉しながら画面をのぞく。
アラームだ。昨日昼寝の目覚ましに設定したのが残っていたらしい。
焦った手つきでけたたましい音を止めた剛は、ちらりと同席者の方向をうかがった。
その人はいつのまにか、剛の目の前にいた。
テーブルを挟んだすぐそこに立っている大きな体躯。
剛は言葉を失って相手をただ見上げる。
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