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相手は普通ではなかった。
獣人、という言葉がとっさに思い浮かぶ。
その人の顔は鼻先に向かって出っ張っていて、口の位置にある裂け目は頬の半ばまで続いている。唇も眉もなく、眼窩の奥からは白目の見えない鮮やかなグリーンの瞳が光っている。先ほど後ろから見たキャラメル色の髪は、ライオンのたてがみのようにふさふさと顔の周りを飾って頭の後ろに広がっていた。
まん丸になっていた剛の目が、徐々に平静を取り戻していく。
クオリティの高いコスプレだ。
顔から手まで複雑な模様の毛皮に覆われているのは着ぐるみだと思えば違和感もない。普通の人間よりどこもかしこも一回り以上大きいのはそのせいだろう。
服装だって、ギリシャ神話に出てくるトガのような布を肩と腰に巻いた姿で、右手には長い金色の杖を握っている。ゲームのキャラクターか何かのコスプレに違いない。
「下がっていろ」
その人は深みのある声でそう言った。口がしっかり動いた気もするが、きっと何か動かすしかけがあるのだ。
ライオンめいた顔は、何やら剛の背後に注意を向けているようだった。
その視線の先を追うようにして剛が振り向くと――その人が雨の中に飛び出していった。文字通り「飛び出した」。つまり、跳躍してテーブルとベンチを飛び越えた。
ライオン男が向かった先を見て、剛はまた言葉を失う。
巨大な蟲がいた。
ムカデといおうかなんといおうか、細長い脚がびっしりと生えた胴体が鎌首をもたげ、この東屋の屋根にも届く位置に持ち上げた顔でこちらを見下ろしている。
いや、どこを見ているのかわからない。無数にある玉虫色の目玉はそれぞれがぎょろぎょろと動き、その下には粘液を垂らす口、そこから飛び出した鉤爪状の二本の牙が虚空を挟む動きを繰り返している。
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