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ライオン男が巨大ムカデの前に滑り出る。
ムカデは叩き潰そうとするように彼めがけて頭を振り下ろした。ずん、と地面が割れる振動が剛にまで伝わってきて、思わずベンチにしがみつく。
彼はつぶされていなかった。
地面を揺らす一撃をかわすと同時に手にした杖を振り、薙ぎ払うようにムカデの脚を切り裂いた隙間から宙へ飛び出す。
そのままムカデの頭に着地すると、一斉に頭上を見つめてくる大量の目の中央に、杖の先端を突き立てる。
殻でもあるのか、杖は一度はじき返された。
が、手が振り上げられ、今しがた刺し貫き損ねた目をガツガツと何度も殴りつける。
その間ずっとムカデは長い体をのたうたせて頭上の存在を振り落とそうとしていたが、彼はぴったりと張り付いたまま目を殴り続けた。
やがてぐしゃりと顔面の殻がつぶれ、気色の悪い緑色の粘液が傷口から噴き出した。彼が再び杖を振り上げ、今度は傷口に深く突き刺さる。
そして彼の短い雄たけびに続いて、青いプラズマが走るのが見えた。
雨粒がバチバチとはじける音。雷が落ちるのでは、という危惧が頭をよぎると同時にひときわけたたましいバチンという音が響き渡る。
とっさに目をつむった剛がおそるおそるまぶたを開くと、黒く焼け焦げたムカデが地面に伏していた。
剛はあっけにとられながら、蟲から杖を引き抜いたコスプレ男が、すたすたとこちらに戻ってくるのをただ見守る。
驚きながらも、彼がただのコスプレ男でないという事実を受け入れ始めていた。
なにしろ現実に体験してしまったのだから。
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