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3. 獣人とおしゃべりする
「感謝する」
剛の前に立ったライオン男は、握手を求めるように左手を差し出してきた。
その手の甲は髪と同じ濃い色の金髪で覆われ、指には石器のような分厚く鋭い爪が生えている。おまけに、さっきのムカデの体液だろう、得体のしれないねばねばしたものがたっぷりこびりついていた。
剛がいかにも触りたくなさそうな表情をしたからか、彼は手を自分の体に巻いた布でぬぐい、再び差し出してくる。
布は白地に隙間がないほど細かく金色の刺繍が縫いこまれており、いかにも手の込んだ造りをしていた。
「……俺、何もしてないけど」
おそるおそるその人差し指を――彼の手は剛の二倍は大きさがあった――握りながら、返事をする。
剛は普通に会話をしていた。
もともとものを深く考えないたちなのだ。その場その場で事がうまく運べばそれでいい。多少、合点のいかないことが起きても、こだわりなく順応できるのが剛のなけなしの特技だった。
とりあえず対応さえできれば、すべてを理解する必要なんてない。
「眠っていたのだ。そなたが音を立てたおかげで、やつに気づくことができた」
彼はこともなげにそう言って、剛の隣に腰を下ろした。ベンチがよく耐えられると思うほどの重量感だ。
間近で見れば、着ぐるみではこうはいかないだろうことがよくわかる。彼の体は明らかに筋肉の詰まった生身である。
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