スパムな彼女に恋してた。

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スパムな彼女に恋してた。

”もしかして、また私のメッセージ、スパム認定されてるの?”  スパムボックスの中で瀬菜は不機嫌にしていた。  しばらく連絡がないなあ、なんて思ってたらこれだ。”このアカウントからのメッセージをスパムボックスに入れない”にチェックを入れて、ようやく彼女との連絡が取れる状態に復旧させる。これで何回目だろうか。瀬菜からのメッセージが、スパムボックスに入ってしまうのは。セキュリティシステム、GUARDUS(ガーダス)の普及により、個人宛にメッセージを送ることができるSNSを利用した詐欺事件は、格段に減少した。しかし、稀にごく普通の一般市民のアカウントからのメッセージも、スパムボックスに入れられ、連絡がとれなくなってしまうことがある。  そう、僕の恋人の、西野江瀬菜(にしのえ せな)のように。 「遅いよ。電話もしたのに」  待ち合わせ場所、大きな瞳を模したオブジェを背にして、瀬菜は頬を膨らませた。せっかくのデートの待ち合わせ場所に向かう途中で、連絡が取れなくなり、大幅に遅刻してしまった。 「悪い。さっき瀬菜のメッセージが、スパム認定されているって気づいて」 「だろうなーって思った」  スパム認定されれば、電話さえもつながらなくなり、完全に音信不通になってしまう。  お陰でこの辺の地理に慣れていない僕は大幅に遅刻してしまった。このオブジェは、一目見れば忘れられないくらい印象が強いんだけど、ちょっと場所が分かりづらい。  そぞろ歩きを始めて、カーキのガウチョパンツの裾が、緋色のストールが、リズミカルに揺れる。彼女のファッションセンスを褒めたけれど、「柄でもないこと言わないの」と流されてしまった。 「でも、ありがとう」  僕の方を振り替えって、とびきりの笑顔を見せてくれた。右頬にえくぼができる。口許にあるほくろと合わさって、とってもチャーミングだと思う。しばし見とれていたところで、手を引かれて連れていかれる。今日のデートの目的は、流行りのミステリー映画だ。
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