スパムな彼女に恋してた。

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 今までは連絡が途絶えてもスパムボックスを覗けば、胡散臭い詐欺メッセージの中で、瀬菜からのメッセージが燦然と輝いて見えたのに。完全に連絡が途絶えてしまうのは、初めてだった。  流石に不審に思った僕は、GUARDUSを管理している国家機関を訪ねることにした。ここではユーザーが所持している端末の現在位置、移動履歴、会話履歴の全てを調査することができる。僕らは、GUARDUSに徹底的に管理されている上、それなりの額を積めば簡単にデータを取り出せてしまう。それに異を唱える者も少なくはない。けれど、犯罪者との接触機会や、行方不明者が発見されないままに亡くなってしまう事例が、うんと減ったのも事実だ。  調べてもらったが、端末の現在位置を掴むことはできなかった。 「三十二日前の日曜日を最後に、端末からの信号が途絶えていますね」  その日は、デートをした日だ。それ以降、瀬菜は完全に消息を絶ってしまっている。位置情報を調べた調査員の推測によると、僕と別れた後に瀬菜は、橋の中ほどから、川底に向かって端末を投げ捨てたと。 「西野江さんの過去の行動履歴と照らし合わせて、同じ人物が持っている端末を絞りこむこともできますが、どうしますか?」  瀬菜は、自ら僕との繋がりを絶った。だから、今さら居場所を知ったって、どうしようもないのだけれど、首を縦に振ってしまった。    瀬菜と行動パターンが近い都内在住者は、十四人。さらに、都内に設置されている監視カメラの映像を解析した結果。  なんと、そのうち八人が同じ顔をしていた。 「これはどういうことですか?」 「西野江さんは、合計九台の端末を所持して使い分けていた。そして、そのそれぞれで別の男性と繋がっています。それもただ会って話したとかいうレベルではなくーー」 「もう、いいです!」  聞きたくないあまり、机を乱暴に叩いて立ち上がる。そのまま調査員に詰め寄ろうかというところで、我に帰って椅子に座り直した。 「すみません、取り乱しました」 「いえ、無理もありません。おそらく西野江さんと交際している全ての男性が同じ感情を抱くと思います。このまま弁護士を紹介することも可能ですが、どうされますか?」  そこで僕は、踏みとどまった。好きだった瀬菜を相手取る気は流石にない。そんなに簡単に、彼女への気持ちを憎しみには変えられない。  彼女が、複数の男性との肉体関係を持っていることを、GUARDUSは見抜いていた。彼女は、近づいてはいけない人だった。と調査員は僕に語るけれど、そんなうんざりな真実は聞きたくない。僕が札束をはたいて買ったのは、消してしまいたい記憶だった。  それが無駄な買い物かどうか、決めたくもない、考えたくもない。もう、いっそのことなら、彼女の存在ごと忘れてしまいたい。思考を夜空と同じ真っ黒に塗りつぶしながら、家にたどり着く。
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