遺してくれたもの

1/1
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ

遺してくれたもの

「なんで、私より先に……。一緒にって…………」  彼氏の実家にある仏壇の前に座り、少女が涙で濡れる顔を両手で隠す。  仏壇に置かれた1枚の写真。それは彼女の恋人・雷人の写真だ。  彼との約束が守れなかった。あともう少しで結婚できたのに…………。  一緒に暮らして、一緒に子供を育て、一緒に歳をとり、一緒に死ぬ。  そんな理想の世界が、彼の持病で消えてしまった。  診断名は聞いていない、最後の最期まで、教えてくれなかった彼氏。  一途な思いを半分こして、中学の時から付き合っていた愛人。  なぜかわからないが、だんだん大きくなっていく、私のお腹。  すると、 ――トン……トン……。  何かが私のお腹を叩く感覚がした。 最初親に聞いても、 『ただ単に正月太りしただけじゃないか?』  という言葉しか言ってなかったが、大きく膨らみ始めたのは4ヶ月前から。  家に帰り、私は親の送迎で送ってもらい産婦人科へ。 「先生、よろしくお願いします」  問診等様々な検査を行い、超音波を使った検査もした。  体力があまりないので、全てが終わった時には、疲れきってよろけてしまう。  名前を呼ばれ、先生の部屋へ向かい椅子に座る。ここで言い渡された言葉……。それは、 「咲羅さん、…………しています」  一瞬嬉しくなった、きっとこれは彼氏からの贈り物なんだと彼女は悟った。  このことが本当なら、嘘ではないのなら、今まで一緒にいた雷人と、1歩ずつ踏みしめ歩んだ足跡が生んだ奇跡なんだ。  『妊娠』  それが、彼女に伝えられた言葉だった。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!