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今となっては昔のこと。
ある山の麓に姉妹とその母親と住んでいた。
その家の前には見事な紅白2本の梅の木が蛇のように絡まり合って生えていて、ちょうど梅の時期に生まれた2人はその梅にあやかって名前がつけられた。絹のような光沢のある肌を持つ白練、混じり気のない朱丹のような紅い唇を持つ真朱。
2人はすくすくと育った。
2人の住む家は人里からは随分遠く、たまに母親を人が訪ねてくるらいで、誰もその姉妹のことを知らなかった。母親は2人を隠していた。時の帝の皇嗣は傍若無人で、美しいものがあると知れば連れ去るともっぱらの噂だったから。だから母親は誰かが来るときは2人は家の奥に隠されるか、客が去るまで家から出されていた。
母親以外誰もいない生活でお互いを知るものはお互いだけ。お互いの考えていることはなんでもわかる。大人しい白練と元気な真朱は性格こそ大きく異なったが、いつも一緒で、死ぬまで一緒にいましょうと密かに誓い合った。
2人は日中は畑で水やりをしたり、のんびり釣糸を垂らして釣りをしたり、森や野山で山の幸を求めて過ごした。2人にとって森は安全で、森の中で2人でこっそり夜を過ごすこともあった。2人にとって世界は見えるそのままで、何の悩みもなく幸福に満たされていた。
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