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それはあるとても寒い夜。家の外は白銀に染められていた。
囲炉裏にくべられた黒い薪はぱちぱちと朱い火を踊らせ、時折ぴしりと炭が白く割れて崩れ落ちていた、そんな夜。
2人が囲炉裏の隅で寄り添って暖を取っていると、ふいに入り口の戸がカタカタ揺らされ声がかけられた。2人にとって、お互いと母親以外の声を聞いたのは初めてだったかもしれない。母親もまさかこんな猛吹雪のなかを人が訪ねてくるとは思ってもいなかった。
「どうか、一夜の暖をお願いしたいのです。外はとても寒くていられない、何卒お慈悲を」
「申し訳ないですが中に入れて差し上げることはできません。お帰り下さい」
2人の母親はそう断る。これほど寒い以上、2人を他の部屋に追いやることはできない。2人を人目に晒さないためには入れるわけにはいかない。
けれども声はゴォゴォなる吹雪の音とともに震える声で戸を揺らす。
「もうまぶたも凍りついて目を開けることもできません。もうすぐ口も凍りついてしまうでしょう。それならせめてこの戸口で暖を取ることお許しを。どうか、少しだけでも」
しばらくすると戸の揺れも止み、雪が唸る静かな音だけが響くようになった。そして戸口でドサリと何かが崩れ落ちる音がした。
「母さん、入れて欲しいといっているわ」
真朱が声をかけ、白練はそわそわと戸口に近づく。2人にとって世界はとても単純で、頼まれごとを拒否するという意味が理解できなかったし、そんなことをしたこともなかった。
母親は諦めた顔で戸口をそっと開けると、真冬の冷たさとともに真っ白な雪が一斉に室内になだれ込み、同時にドサリと雪に塗れた大きな大きなものが室内に倒れ込んだ。
真朱は尋ねる。
「母さん。これはなあに? 母さんのお客さん?」
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