白梅と紅梅(表)

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そうしていると冬が明けた。 その日の少し前あたりから、大地を抱きしめるように日差しが暖かみを増し、白い雪は地面を滑って冬とともに旅立った。 若草が芽を出し、陽光をキラキラと反射する白い小川の水面にピチャリと青い魚の背が跳ねた。 家の前の紅白の梅の蕾も膨らみ、もう少しで花開こうという朝。 「春が来てしまった。冬が来るまで俺はここには来れない」 「どうして」 「俺は悪い小人を倒さないといけない。そうしなければ俺はずっとこのままだ。奴らは暖かくなると動き出す」 「このままじゃだめなの?」 熊は少し困った顔で2人を見て、小人を倒したらきっと戻るといい残し、扉をくぐって柔らかい春の光に消えた。その時、熊から金色の何かが零れ落ちたように見えた。 春の野山はとても豊かだ。 2人は冬眠から覚めたように芽吹く若草や若葉の間を通り、セリやタラの芽、ふきのとうを探して森に足を運んだ。 ある日2人は倒れた木に髭を挟んで動けない小人を見つけた。 「コン畜生め! そこのお前! 早く木を退けろ! 何してやがる! ウスノロめ!」 2人は驚き木を動かそうとしたけれども、木はびくとも動かなかった。仕方なしに白練はその髭をハサミで切った。 「なんてことしやがる! 俺の大切の髭を! どうしてくれよう! そうだ! お前に呪いをかけてやる! お前らはあの熊が好きなんだな? あいつがどんな奴かも知らないままに! ならその姿の半分を変えてやるのだ!」 小人は白練の右半分に魔法をかけた。そうすると白練の右半分は絹のような美しい色を失い、普通の肉色の肌を持つ普通の娘の体になった。 小人は悪態をつきながら側にあった袋を担いで去っていった。 半分の姿がかわった白練は、とても歩きにくそうで、真朱はいつもより寄り添って暮らすようになった。
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