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1 花純は酔いつぶれて、大学の先輩南城馨の部屋に泊まる
花純は男性に対して臆病で、高校の時の嫌な経験から、さらに臆病さが増していた。大学に入ってからも声を掛けられるが、すべて断って恋愛のない2年間を過ごしていた。好意を持った男性はいない訳ではなかったが、その人には彼女がいて、とても割って入る勇気はなかった。
20歳になって、地元の成人式で会った仲間達の恋愛話に感化され、自分も恋をしていろんな経験をしてみようと思うようになっていた。
大学2年生になった花純は、教職のゼミに入っていた。5月の歓迎コンパに参加し、初めての酒に酔いしれていた。他の女子達は男子と楽しそうに会話したり、|媚≪こ≫びを売ったりしていたが、花純はそういうのが苦手で、ついつい飲み過ぎていた。コンパが終わる頃にはすっかり酔いつぶれ、意識がなかった。
翌朝目を覚ました花純は、自分がどこにいるのか分からなかった。見覚えのない天井と窓から射す日、キッチンに見知らぬ男の影を見て驚いた。慌てて毛布の中の身体を確かめると、下着だけの自分を認めた。
「やっとお目覚めかな?坂上さんがすごい勢いで飲んでたから、心配したよ。」
男の声に聞き覚えがあって、見るとそこには憧れの南城馨が立っていた。
「えー、何で?南城先輩がここにいるんですか?」
「何でと言われても、ここは俺の部屋だからね。君が酔いつぶれていたから、俺の部屋へ担ぎ込んだんだよ。女の子達は皆帰った後だったから、仕方なくね。」
花純は昨夜の事を、薄っすらと思い出していた。そういえば、最後の方は南城先輩にからんでいたような気がしたが、そこで記憶が途切れていた。
「すみませんでした。良かったら、私の服を取ってもらえますか。私は先輩に何かされましたか?それとも私が何かしましたか?」
「何もしてないし、されてないよ。服は君が自分で脱いだんだからね。」
花純は恥ずかしさで、顔を真っ赤にして毛布を引き寄せた。
南城が作ってくれた朝食を二人で食べ終わる頃には、花純は大分落ち着いていた。何もされなかった事を喜ぶべきか、少しだけ落胆している自分もいた。
「南城先輩には、彼女さんがいるんですよね。名前は何でしたっけ?」
「いるよ!学部は違うけど、桐野愛海というのが俺の彼女。堅くて、理屈っぽい所が、何となく坂上さんと似てるな。」
南城の口振りから、自分に目を向けさせるのは無理だと、花純は確信した。お礼を言って別れ際に、南城が思わぬ事を口にした。
「そういえば、介抱してる時、君が俺にキスしてきたよ。酔ってて気付いていないみたいだから、一応報告しておくね。」
花純は頭を金槌で殴られたようなショックを受けた。まさか自分から彼にキスしていたなんて、酒の力を借りての行為とは言え、そんな大胆な行動をした自分が信じられなかった。
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