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ーーー何もないな…。
嘘のように真っ白な世界。
辛うじて見えたのは青い海だけで、他は全てこの色だけになっている。
ここは、私がかつて生きていた星、
「地球」
数年前に崩れ滅び、私は他の星へ運良く逃れた。
あれからどうなったのか、ずっと気になっていた。
仲間は私を止めたが、行かなければならないと思った。
誰かに、呼ばれているような気がして。
そして今、ここに降り立ち、その現実を目に焼き付けている。
サクッ…
誰もいないはずの世界で砂の音が響く。
サクッ…サクッ…
私は全身が凍りついた。
私は今、動いていない。
「やぁ、こんにちは。」
穏やかな声が届けられた。
振り返ると、そこには一人の人間のような姿があった。
「此処に人間が帰ってくるとは思わなかったよ。」
その長髪の男の優しい顔立ちと笑顔で、一瞬にして緊張感は失った。
「…あなたは…?」
「私はこの星、地球だ。君に合わせて人間の姿を今はしている。」
本来ならば信じがたい話だが、私は彼が本物だと思った。
何故なら、彼の立つ場所にだけ、無いはずの緑が存在していたからだ。
彼と私は、暫くの間、いろんな話を交わした。
かつての地球での事や、私が今いる星での事。
まるで懐かしい友人に再会した時のように。
「よかったよ、最期に人間と話が出来て。
」
「最期?」
「そう、もうすぐ眠りにつく。再生するかどうかは、他の星の様子を見ながら考えようと思ってる。」
静かな声に胸が痛む。
「ーーーすみません…私達人間のせいで…。」
「もう、過ぎた事だよ。そして戻らぬ事だ。」
俯く私の前に、彼は手を差し伸べた。
「これをーーー。」
その手から突然、一冊の本が現れた。
「これにはこの地球の歴史が記されている。人間ではなく、私(地球)が見て来た本当の歴史だ。君にとって、信じがたいことが沢山書いてあるだろう。」
「ーーーどうして…私に…?」
「君は物語を描いたり詠ったりするのが好きなようだから。」
「…うん。でも、ちっとも読んではもらえないけどね。」
そう言った私に、彼は真っ直ぐな目で告げる。
「そうか、でも目に見える人だけが読んでいるわけじゃないよ。今君がいる星なら、何時かそれがわかる日が来る。この通りでなくていい。君の形の中に、これを遺してくれたら嬉しい。」
私はその言葉を抱きしめ、笑顔で深く頷いた。
「さて、そろそろ私は眠りにつくよ。」
「…また、会えるかな?」
「時々、会いに行くよ。夢の中で。」
透き通る笑顔が胸に広がる。
「ーーーおやすみなさい。」
「…おやすみ…良い時をーーー。」
私は再び、地球から離れて行く。
白と青の地球が、少しずつ、嘘のように透明になって行く。
遠くなるにつれ、その透明な景色は、地球の人間達によるゴミによって書き消される。
星に戻ったら、筆をとり、また物語を描こう。
短くてもいい。1つでも完成させたい。
そして願う。
夢でまた、貴方に会える時を。
少し悲しそうな、寂しそうな瞳をした『地球』。
貴方が笑顔で目醒める宇宙を、築くきっかけになれるようにーーー。
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