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「僕が伊織で」
「僕が詩織」
「「よーく覚えてね!」」
右側で結っていた方が伊織で、左側で結っていた方が詩織だったらしい。しかし二人は髪ゴムを外し、にこーっと笑ったかと思うとぐるぐると回り始めた。
朝日奈伊織と朝日奈詩織。そっくりな二人はその愛くるしい容姿と無邪気な言動からネコ、つまり挿れられる側だと勘違いされがちだが実際はバリバリのタチ、挿れる側である。見てくれに騙されて襲ってきた体格のいい男共をぺろりと喰らうのがお好きらしい。うん、近寄らんとこ。
見分けがつかない程に回った二人はさあどーっちだ、と手を広げた。にしてもやっぱめちゃくちゃ似てんなこの二人。ドッペルゲンガーかよ。
俺もこっそり考えてみようかと二人の顔を見比べていると、ばっちり目が合ってしまった。
「あれ、あれあれ、君ってひょっとして」
「わぁ、最近話題の爽やか王子君だー!」
きゃらきゃらと無垢な笑みを浮かべながら俺を指さした朝日奈ツインズ。まさか話しかけられるとは思っておらず、びくりと肩を震わせてしまった。
「……それは、えーっと、もしかして俺の事言ってます?」
恐る恐る訊ねると二人はぐいっと近付いて来て、俺を挟むように左右に立った。俺より小さい彼らは上目遣いで俺を覗き込む。
「もっちろんだよ。名前は確かー」
「椎名唯くん!」
「高等部からこの学園に入学した外部特待生なのに」
「一ヶ月も経たないうちに親衛隊が出来ちゃって」
「かわい子ちゃんたちにモッテモテ」
「爽やかでスポーツ万能、物腰が柔らかくてとーっても優しい!」
「って、二年生の間でも広まってるんだよ〜」
左右から交互に声が飛び交い、もうどちらが何を言っているのか分からなくなってくる。
そもそも雲の上の存在だと思っていた生徒会役員に名前を覚えられていただけでも予想外だが、まさかそんな話が広まっていたなんて知らなかった。
困惑しながらユズに助けを求めようとするが、ユズは目をキラッキラさせながら存在感を消している。お前こういう時だけ上手く消すなよ。いつもの喧しさはどうしたんだ馬鹿。
「えっと……そうなんで、」
「じゃあじゃあー、そんな王子くんにもチャンスターイム!」
「え、」
「「どっちが伊織でどっちが詩織でしょーか!」」
可愛らしいポーズとともに告げられた言葉に、膝から崩れ落ちそうになった。だって、いやいや、こんなまさかの展開は流石に予想していない。なんで俺がこのお約束ゲームに巻き込まれてんだよ。
ハルから俺へとターゲットを変えたらしい双子は、小首を傾げて俺の答えを待っている。そして彼らの少し後ろにはそんな俺たちをどこか面白そうに見つめている生徒会役員の姿。
「ああ、コイツが噂の、な。中々綺麗な顔してんじゃねぇか」
「そういえば三年生の間でも最近よく彼の名前を聞きますね」
「へぇ、筋肉は付いてるけど意外と華奢なんだ〜。顔も体つきもオレ結構タイプかも♡」
「花菱……節操がないぞ」
いつの間にやら視線の向きは全て俺だ。不穏な会話にひくりと俺の爽やかな笑みが引き攣った。
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