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「ウソでしょ、何あの不潔な髪の毛……!」
「ヤダ〜!あんな格好で東堂先生の隣に立つなんて僕なら絶対ムリ!」
ザワザワ、ヒソヒソ。容姿至上主義的な風潮が強いこの学園では、彼の異様な格好は不評のようだ。きゅるるんと可愛らしい子たちから刺々しい言葉が次々と飛び出てくる。
口に出すべきではないとは思うが、正直気持ちは分からんでもない。鬘かどうかは分からないがもっさもさでぼっさぼさな重たいあの髪はもう少しどうにかならなかったのかとは俺も思う。
だがしかし今の俺は爽やかで人当たりのいい好青年くん。人の悪口などは言わない。え?明らかに性格違うだろって?いやいや、これには深そうで意外とそうでも無い理由があるんだ。
簡単に説明しよう。ここは王道学園、すなわちBLの宝庫。そして俺、中々整った容姿。しかしながらnot同性愛者である。俺は考えた。どうすればBL展開を回避出来るのか。考えに考えに考え抜いて、“そうだ、爽やかくんになろう”という結論に至ったのだ。
王道学園に必ずと言っていいほど登場しながらも彼が主人公と結ばれる展開は無いに等しく、王道転校生君の取り巻き的な立ち位置にいることが多い。そう……これだ。誰とも結ばれず、誰ともフラグが立たない!なんって素敵なポジションなんだ爽やかくん!!
俺は高校入学当時、完璧にキャラを作りこんで入学式に望んだ。
____しかし。どちらかと言うとお口が悪めな俺はキャラ設定をミスった事を早めの段階で悟った。
やべえやめてぇこのキャラ設定。爽やかって何?スポーツでもしてりゃいいわけ?人当たりのいい性格って結構大変だな??
すぐにでもやめようかと思ったが時すでに遅し。顔が平均よりも良かったばかりに注目を集めてしまっており、あっという間にこのキャラが浸透して引けに引けなくなったのだ。
ぐぁー!やっぱ無理にキャラ作るもんじゃないわ!!
表面上は涼し気な顔を崩さずに内心荒ぶっていると、未だに悪意ある言葉が飛び交う状況に担任が口を開いた。
「オラ、そろそろ黙れお前ら。大人しく出来ないってんならその口……俺が塞いでやろうか?」
刹那、絶叫。
男にしては高い黄色い歓声が教室中から飛び交い、うっとりと担任を見つめるチワワちゃんたちが大勢。
先程までの嫌な空気は無くなったが、俺は白けた目で担任を眺めた。東堂迅。ウルフカットの金髪に、耳元にはシルバーのピアスが光っている。気だるげな目元が色っぽくて素敵だと大人気のセンセーは、どこぞのホストかと思うほどチワワちゃんたちへのサービスが凄い。
嫌いじゃないがコイツのキャラは鬱陶しいんだよな。
なんて悪態をつきながら見ていたらバッチリと担任と目が合った。嫌な予感がする。彼はニヤリと笑った。
「あー、ハルは海外からこっちに来たらしくてな。分かんねーことも多いだろうから教えてやれよ。席は……椎名の隣だ」
そいつァ良い奴だから安心しろよ、なんて転校生くんに向かってかるーく付け足したセンセー(9割ホスト)に思わずひくりと頬が引き攣る。
いやいやいやチョットマッテ!!?爽やかくんポジ目指してるとは言っても出来ることなら関わりたくないんですが!?
……とは流石に言えず。
「あー、よろしくね、皆瀬くん」
反抗期な表情筋を全力で駆使して、にっこり爽やかスマイルを浮かべて見せたのだった。
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