新入生歓迎会

12/25
前へ
/41ページ
次へ
「必要な道具諸々は行き渡りましたでしょうか。……はい、それでは皆さん準備が整ったようですので、まもなくゲームを始めさせていただきます。開始時間は今から約十分後。校内のアナウンスが鳴りましたらスタートです。最初の位置取りも、重要かもしれませんね?」 怪我なく楽しい一日にしていきましょう、と最後に締めくくった副会長。 十分後か。まあ、校舎内は馬鹿みたいに広いからそれを考慮して散らばる時間が多めに取ってあるのだろう。そう急ぐ必要は無いと判断して俺はのんびり歩き始めたのだが、一般生徒たちは豪華景品に釣られてかかなりモチベーションが高いようで、副会長の言葉が終わった瞬間我先にと体育館を後にし始めた。 しかし中々大きな水鉄砲を皆が抱えているからか混雑が激しく、思った様に身動きが取れない。人の流れに身を任せながらも押し潰されそうな勢いに顔を顰めていると、ぐっと腕を取られて比較的人の少ない壁際まで引き寄せられた。 「唯!大丈夫か!」 「っと、ハル。ありがとう、助かったよ」 少し楽になった呼吸に肩の力を抜いて、人の波が治まるまで大人しくしていようかと壁に背を預けた。ところで王道主人公くんである彼は今日はどう動くつもりなのだろうか。 「ハルは何か作戦でもあるの?」 「え、作戦?全然考えてないけど……これそんなガチな感じ?」 あっけらかんと言い放ったハル。どうやら本当にこれっぽっちも考えていなかったようだ。 「本気度はまあ、人によるんじゃないかな。景品が欲しい人たち……それこそ親衛隊の子たちはかなり本気で上位を目指すだろうけど、純粋に楽しむって子たちも中には居るんじゃない?」 「ふぅん、そっかぁ……あっ、景品って言えばさ、あれ、唯も対象者って事だよな?」 「まあ、うん、そうだね」 止めろ、思い出させないでくれ。にこやかな笑みが不自然に引き攣るのは不可抗力だ。ハルはじゃあさ!と汚れなき笑顔を浮かべる。 「もし俺が最後まで生き残ったら、唯に景品使っていい?」 「え?」 「デート券ってことは、外出許可出るってことだろ。二人でさ、どっか遊びに行こーぜ!」 俺、ゲーセンとか行きたい!と続けたハル。俺はふるふると肩を震わせ、片手でそっと自身の口元を覆った。こ、これぞ男子高校生ッッ!これぞ俺の求めていた青春!!友達とゲーセン、何て素敵な響きだろう。 「……そうだね。行こうか、ゲーセン」 「マジ!?よっしゃ!」 「うん。でもそれなら、絶対最後まで生き残って。俺のために、ね?」 緩く首を傾けて、目を細める。挑発的に笑って、ハルの目を見つめた。 ハルが生き残ってくれたら俺は一石二鳥。他生徒とのデートを回避出来て、更にハルと普通に遊びに行ける。なんてパラダイス。 「ッ……お、おう!任せとけって!」 少し目を見開いて、その後とびっきりの弾ける笑顔で答えてくれたハル。 「じ、じゃあ俺もう行くな!あーっと、唯も頑張れよ!」 「え?ああうん、ありがとう?」 どこか慌てたようにその場を去っていったハルに、なんだアイツと腕を組んで片眉を上げた。ま、いいか。とにかく、俺も生き残って一年生の二枠を埋める事を目標に頑張ろう。
/41ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2867人が本棚に入れています
本棚に追加