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さて、ということで外に出てみたはいいものの、俺は未だにこの広すぎる敷地内を把握しきれていない。しかしよく考えてみると一年生には中々不利なんじゃないか、このゲーム。
そりゃあ二、三年生は隠れ場所や逃げられるルートをよく把握しているだろうし、それに仲のいい友達と協力するなんてことも……いや待てよ。違う。違うわ。これ不利なの俺とユズとハルぐらいだわ。
だって皆さんエスカレーター式ですもんね!!中等部は校舎が別だと言っても敷地は一緒だし、チームワークなんてそんなもんバッチリなんでしょうねくそ!!
「これ、もしかして詰み?」
水道で水鉄砲の水を補給しながら、小さく呟いた。そのまま近くに立っていた時計に目をやると、なんと既に五分を過ぎている。
やっべ、早いとこ安全地帯を探さないと。
俺は辺りに視線を巡らせながら、人気がない方を目指して軽く走り出した。校舎内は隠れる場所が多いけど、その分挟み撃ちの危険性は高い。逃げ場が限られてくるから出来るだけ外に居たいな。それに水鉄砲、意外と邪魔だし。最悪逃げ切ることだけを考えてどっかに捨て置くのもありか?
そんなことを考えて、隠れ場所を探す。しかしどこに行っても既に誰かしら居て、そうこうしているうちにゲーム開始の放送が流れてしまった。
ああもう仕方ない、向かってくるヤツらだけ適当に相手して……
「あっ、唯くん発見!」
「唯様!待ってくださぁい!」
「うっそだろおいっ」
なんっっでこんなに集中攻撃!?
恐らく俺の親衛隊の子である一人のチワワくんと目が合った瞬間に叫ばれ、わらわらと仲間が集まってきてしまった。なんとか的は死守しているが、ぴゅっぴゅぴゅっぴゅとあちこちから水が飛んでくる。
校舎を上手く使って角を何度か曲がり、そうしてやっと撒くことが出来たが、想定以上に初っ端から走ってしまった。木の裏に体を滑り込ませ、乱れた息を整える。
もうヤダ走りたくない。あんなに連携とって俺をターゲットにしてくるなんて聞いてないんだけど。何でなの??鬼ごっこじゃないんだから皆もっと隠れることに命懸けよ??
芝生の上に座り込んで、膝を抱えるようにした腕に頭を乗せる。ひっそりと気配を消して、まだ近くに居る親衛隊の子たちをやり過ごすことに決めた。木が多い茂っているからか、この辺りは死角になっている。絶好の隠れ場所に、ひとつ胸をなでおろした。
悪い子たちでは無いのだ。定期的に開催される俺と親衛隊の子たちとのお茶会では、皆恥じらう乙女かと言わんばかりのいじらしい様子で俺に接してくる。それに加えて制裁、嫌がらせも聞いたことが無い穏便派であるはずの彼らも、やはりこういうイベント事になると全力らしい。
数分経った後、声も聞こえなくなったからと立ち上がろうとしたその時、不意にまた人の気配を感じて咄嗟に木の影に身を隠した。
「っん、も、やだァ」
「イヤ?ふぅん、本当に?」
「っあ、ん」
…………なるほど、クソすぎる展開だ。
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