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情事を思わせる色気を滲ませた視線が、俺を射抜いた。銀色の髪が差し込む陽の光に照らされ、端正なつくりの顔がはっきりと見える。そしてその顔に浮かぶ怪しげな笑みも。
「なぁ、雰囲気ぶち壊しといてどこ行く気?覗き見なんてキミ、随分イイ趣味してんじゃん」
にぃっと口角を吊り上げた彼と、視線が交わる。その瞬間、何故かぞわりと嫌な気配を感じた。しかしすぐにその気配は無くなり、気の所為だったのだろうかとそっと腕を摩った。
彼の周りを見て見てみると、近くにブレザーが投げ捨てられている。そうだ、彼は今まさに可愛い男の子を連れ込んでおっぱじめようとしていた筈だ。それが何故か、ぽかんと呆気にとられているあの子を放ったらかしにして俺に向き合っている。
自分の不運さに最早怒りさえも湧いてきたが、今は兎にも角にも如何にしてこの場を無難に切り抜けられるかを考えるしかない。
俺は一度目を閉じて、それからまた開いた。困ったように眉を下げて笑う。
「……まさか。他の生徒から逃げていて、たまたま此処に隠れていたんです。そうしたら何やら怪しげな声が聞こえてきたので流石にと思って退散しようとしたんですけど……」
気まずそうにそろりと視線を草の上に外して、頬をかく。そもそも今これ真実しか言ってないからね俺。
「ああ、そうだったんだ」
彼は予想外にも随分あっさりと納得してくれたようだった。俺はその返答に拍子抜けしてあ、はい、と腑抜けた返事をしてしまった。よく分からんが取り敢えずチャンスだ。一刻も早くこの居心地の悪い場所から逃れたい。
水鉄砲を持ち直し、くるりと体の進行方向を彼らとは反対側に向けた。
「それじゃあそういう事なので。邪魔をしてしまってすみませんでし、」
た、と言い切る前に、俺の体は後ろ向きにバランスを崩して傾いていた。腕から水鉄砲が落ちていくのを眺めながら、俺は自分の身に何が起きているのか分からないまま後ろに倒れ込んだ。しかしそんな俺の後頭部を受け止めたのは柔らかい芝生などではなく、男の硬い胸板だった。するりと腰に腕が巻き付く。
「まあ待ちなって。折角だしさぁ、楽しくてキモチーことしてこうぜ」
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