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「……はは、ちょっとあの、困ります」
俺の腰に回った腕を剥がそうと手をかけて力を入れるが、どういう原理か全く離れてくれない。え?なに?俺に力が無いだけだって?うるせぇよ気にしてんだよこっちは。
「困る?何が困んの?あんね、俺ちょー上手いから。今までに無いくらい気持ちよくなれるって」
「今までって……や、あのちょ、触らないで……あ、ほら、あの子、あの子はどうするんですか?」
未経験ですが!!!??と心の中で叫ぶが、口にするとまた余計に何か言われそうなのでそれは内に秘めておく。後ろから覆い被さるように抱き抱えられ、片方の手がスルスルと太腿を這った。慌ててその手を押さえて止めたが、これ以上はやばいと必死に話題を逸らした。
「んー?あの子?……あれ、なんだお前まだ居たの。もういーよ、どっか行って」
まるでその辺に落ちている石を蹴飛ばすように、至極どうでも良さそうな雰囲気で突き放した彼に、俺は思わず抵抗していた動きを止めた。
「え、なんで……ッ」
「はァ?なんで?もうお呼びじゃねーっつってんだけど聞こえなかった?」
悲痛な声を上げた男子生徒に、彼は全く思っていなさそうな表情で悪いけどさァ、と続ける。
「さっさと消えてくんね?」
あまりに冷たく響いた言葉に可哀想な男子生徒は引き攣った悲鳴を零し、涙を浮かべながら走り去ってしまった。
ドクンドクンと、心臓が嫌な音を立てる。未だに彼の腕は俺を離してはくれない。ピンと張り詰めた空気に、言葉が出なかった。
「んじゃ、邪魔者も居なくなったワケだし、いいよね」
冷酷な表情はぱっと底の見えない笑みに変わり、言うが早いがシャツの隙間から彼の手が滑り込む。俺が止める間もなく、するりと地肌を撫で上げた。
「ぅあッ!?ちょ、本気で止めてください!!」
「ははっ、なに、かーわいい声出すじゃん?」
ぐっと顎を掴まれ、至近距離で顔を覗き込まれる。此奴の方が俺よりも背が高いため、見上げる形になって少し息が苦しい。
「アンタの顔、かなり好みだわ。今まではずっと女みたいなちっこい奴ばっかとヤッてたけど、今度からはこっち系に手ェ出してみよっかなぁ」
細められた瞳の奥には、ぬらりと男の欲が見え隠れしていた。彼のその言葉に俺は息を飲み、ぐっと拳を握りしめる。そして___
「……ん……な」
「あ?」
「触んなっつってんだよクズ」
思いっきり、頭突きをかました。
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