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「唯さまー!どこにいらっしゃるんですかー!」
「唯さま出て来てくださぁい!」
「……うーん、見失っちゃったね。唯くん運動神経いいからなぁ……」
きょろきょろと辺りを見渡しながら俺を探す親衛隊の三人組。ヤバい不良から逃げ出しげっそりしながら歩いていたところで運悪く正面から遭遇してしまい、俺は命からがら逃げ隠れたところだった。
あの激ヤバ男のせいでただでさえ疲れてるってのに何でこんな目に遭わなくちゃならないんだ俺は。そもそもずっと思ってたんだけど何で皆こんなに追いかけて来るわけ??生き残りが勝者ってことは下手に狙わず隠れてた方が勝率上がるだろ。さてはアホか??
なんて、若干失礼なことを考えながら作戦会議を始めた彼らを見つめる。
「どうする?また唯くん探してみる?」
「うーん。残り時間も近くなってきたし、唯さまを狙うのは諦めた方がいいかも……」
息を潜めてこっそり動向を見守っていると、俺の都合のいい方向に流れが傾いてきた。よしよし、そのまま素直に諦めてくれ。今度またお茶会開くから。
しかしそこで水を差すように一人がでもでも〜!と口を開く。お前こら、でもじゃない!ワガママ言わないで大人しくいい子にしときなさい!!
「折角の大チャンスだよ!?」
「それはそうだけど……僕たち運動苦手だし……」
「もう唯さまの的を狙うより、最後の一人になるのを目指した方が可能性高くない?」
「まあ確かにそれは……」
あれ、え、待って何の話??
ぴーちくぱーちくと話し合う彼らの声が遠のいていく中、俺は話の中身が掴めずにいた。姿が完全に見えなくなったところで、隠れていた木の上からひょいと飛び降りる。運動神経いいって言ったろ?木登りなんて御茶の子さいさいよ。
謎に一人でドヤ顔をかましつつ、しかし先程の三人の会話を思い返してすんと表情筋が元に戻る。あの話しぶりからして俺の知らない間に知らないルールが追加されてますかねもしかして。
嫌な予感が頭に過り、恐る恐るスマホを取り出した。画面を開くと、LINEの通知バナーが一番に目に入る。送信者は学校の公式LINE。学校からの連絡はホームページやこのLINEで確認出来るようになっているため通知は来るように設定していたのだが、音は消していたから気付かなかった。そしてそこに書かれていたのは……
『やほやほ、生徒会会計の花菱でーす。生徒の皆に新ルールの追加をお知らせ!隠れてる人が多いみたいで中々人数が減らないので、お目当ての親衛隊持ち生徒を見事撃破した人には去年と同様ひとつだけ何かお願い出来る権利を贈呈しちゃいまぁす!積極的にどんどん狙いに行っちゃお。あ、そうそう、勿論親衛隊持ち生徒本人にもこの権利はあるので安心してね?
それじゃあ皆、頑張って〜♡』
その文章が、頭の中で花菱先輩の声で再生される。
「これ……いや……ええ……」
俺はふらふらと力なく膝から崩れ落ちた。
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