新入生歓迎会

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それから少しの間、九重先輩と話をしたり、うちの世界一可愛いココくんの写真を見せたりと穏やかな時間を過ごしていた。 にしても九重先輩と居ると本当に落ち着くよな。もう落ち着きすぎてボロが出そうになっちゃうもん。九重先輩なら別に大丈夫なんだろうけど、妥協しちゃうと絶対なし崩し的にダメになっちゃいそうだしなぁ。 そんなことを考えながらパタパタと手で風を仰いでいると、九重先輩がゆっくりと口を開いた。 「今日のゲーム中、トラブルは無かったか」 「トラブル、ですか?」 オウム返しをする俺に、先輩はいつも通りのキリッとした男前な顔を向ける。 「ああ、監視カメラや風紀の見回りはあるが、どうしても目の届かない所はある」 確かに、えげつない広さの校舎にはえげつない数のカメラが設置されているが、例えば教室内はプライバシーの保護の問題で設置されていないし、例え設置されていたとしても死角は存在する。風紀委員会だってずっと同じ場所にいるわけでもないしね。 うーん、にしてもトラブル、トラブルかぁ。 「特には思い当たら……あ」 いや。いやいやいやいや。あったじゃんかよ特大のトラブルが。何が特に思い当たらないだよ、リラックスしすぎてさっきの出来事頭からすっぽ抜けてたよ。 「……何かあったのか」 俺の反応を見て微かに眉間に皺を寄せた九重先輩に、あわあわと手を振りながら必死に言葉を選ぶ。いやだって、懐いてる先輩にヤバそうな男に犯されかけましたーとか言いずらすぎん?? 「いや、えーっと、大したことではないんですけど……」 「言え」 ひぇ!迫力が凄い……!!!だけど顔がいい……!!!羨ましい……!!! ずいっと顔を寄せて俺に迫ってきた九重先輩に思わず背を反らして距離を取ろうとするが、ベンチの手摺によって阻まれてしまう。至近距離に九重先輩の男前な顔があるのは流石に気まずい。 「ん、んー、ちょっと、その、襲われかけた……みたいな?」 「……なに?」 「や、待って待って、違うんです!未遂で、えっと、結局スキンシップ程度のことしかされてません!自分で何とか出来ましたし……!」 皺がより深く刻まれてしまった九重先輩に、俺は精一杯の言い訳を繰り広げる。 「……詳しく、教えてくれ」 「く、くわしく、ですか?」 それはちょっと、と目線を下に逸らしながら口ごもっていると、そっと頬に九重先輩の大きな手が添えられた。え?と思って先輩を見上げると、目の前でバチリと目が合う。吐息が触れてしまいそうな距離だ。 「口に出すのも嫌なほどのことをされたのか」 「いやッ、そういうわけでは……!!」 「ならば、言ってくれ」 懇願するような真剣な目で見つめられてしまうと、流石に黙りを決め込む訳にはいかない。心配してくれてるからこそなんだろうし、と俺は重たい口を渋々開いた。 「実は____」 気まずい箇所はごにょごにょと上手いこと誤魔化しながら話を終えると、九重先輩は相変わらずの無表情で何かを考え込み、そして小さく頷いた。 「……なるほど」 「あの、もしかして俺、やらかしてますかね」 見るからにヤバい奴だったけど、やっぱり本当にヤバい奴なのだろうか。なんかこの反応、九重先輩もあの人のこと知ってるっぽくない?? 「宇野大和」 「え?」 「そいつの名だ。いい噂は聞かない」 関わらない方がいい、と険しい顔できっぱりと言い切った九重先輩に、俺はこくこくと素直に首を縦に振った。ええ勿論!!二度と!!! と、その時、突然九重先輩がベンチから立ち上がった。 「え?どうかし、」 大きな手のひらに口を塞がれ、自身の口元に人差し指を押し付けた九重先輩が俺を見下ろした。 「本当にこんなとこに人いるかなぁ」 「へぇ、そういや植物園なんてあったなぁ。忘れてた」 「俺も俺も。でも隠れ場所には持ってこいだろ。誰かいたらラッキーってことで」 数人の生徒の話し声が、徐々に近づいてくる。これヤバい??いやでも、もしかしたら話が通じる、俺以外を狙ってるタイプの人達かも…… 「椎名くん、どこいるんかな〜」 「つかお前、本当に椎名狙いなんだ?」 「ったりめーだろ」 「なんで?アイツ普通に背丈あるし、可愛い系じゃないだろ。つーか王子って呼ばれてんだぜ?」 「はァ、分かってねーなーお前。そういう奴をグズグズにすんのがイイんだろうが」 「ふーん、そういうもん?……まあ、確かにちょっと分からなくもないけど」 「あー!実は俺も最近椎名いいと思ってた!」 …………うん。にげよう。
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