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【やあ、綿村くん。ウサタンは無事に帰ってきたよ】
「ひょええ」
【君はなぜか神の声が聞こえるからね、便利だね】
「便利って……今度は何用でしょうか」
あまり必要のない情報だが、綿村は神社の息子である。いまも実家の境内を竹箒で掃いていたところだ。
【安眠なんだけど、日本さ、小さいじゃない? ここだけの話ね、その、か、会社? だけっていうの難しいわけ】
「はあ……」
【だから内緒なんだけど、とりあえず日本全員に安眠あげるから、それでよろしく】
「はい。え? それ僕にいう必要あります?」
端から見れば一人で喋っているやばいやつ。綿村はハッとして辺りを見回すが幸い誰もいなかった。
【うーん、とりあえず? ほら、僕たちだけじゃなかったなんてずるい! とか言われてもいやでしょう?】
女子か、と綿村は突っ込みたかったが風の通りがよく、芯から冷える境内で眠らされても困るので黙っていた。
「何かあったらフォローを入れろってことですか。わかりましたよ、では」
【うんうん、またね】
またね、は嫌なんだけどな、と綿村は頭を抱えたが仕方ない。はああ、と大きなため息をついて出てきたばかりの白い月を見上げる。
「……久野さん、どうぞご無事で」
月では元通りに兎が餅をついている。時間が進むに連れてどんどん高く上がるまん丸い月は、いつもより明るく柔らかな光で日本を照らしているようだった。
(さて、綿村の案じる久野が無事に地球に帰ってこられるのかどうか。それはまだ数年さきのお話ということで……割愛割愛!)
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