月面清掃大作戦

2/13

5人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ
――ピローン 「ん?」  先ほどの大型ビジョンから聞き慣れない音が鳴った。平日の昼間だが人通りは少なくない。ふと他の人を覗けば皆一様に首をかしげビジョンを見つめている。 「朗報! 朗報! ついに人類が気軽に月旅行へ!」 「月、旅行?」  妙に響く甲高い声に街がどよめく。スマホで動画を撮っている若い子もちらほらいる。おかっぱ金髪のキャラクターが魔法少女のような格好でステッキを振る映像が流れる。 「今ならここ、南区のみーんなにチャンスがあるよう!」  ああ、地域名を出して信憑性を図るタイプか。 「でもオ、莫大なお金がかかるんじゃないのオ?」  画面の中の、パグをデフォルメしたようなキャラクターがまた耳に残る声で言う。僕は宣伝に飽きてきて、缶コーヒーを買おうと自販機に向かう。 「だーいじょーぶ!」 「うわっ」  小さな自販機の宣伝画面にも同じ映像が流れている。大型ビジョンより一秒遅れてまるで輪唱のようだ。 「なんと月に行く条件はたったの二つだけ!」 「ふ、ふたつゥ~!?」  わざとらしい、と思いながら聞いてしまう自分がいる。 「いち、健康な男女。に、お掃除が得意なひと。だよ!」 「そ、掃除?」  僕は思わず反応する。街もまたざわめく。 「ではでは! 詳しくはホームページまで!」  ブッ、と宣伝は消え、普段の宣伝に切り替わった。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加