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――ピローン
「ん?」
先ほどの大型ビジョンから聞き慣れない音が鳴った。平日の昼間だが人通りは少なくない。ふと他の人を覗けば皆一様に首をかしげビジョンを見つめている。
「朗報! 朗報! ついに人類が気軽に月旅行へ!」
「月、旅行?」
妙に響く甲高い声に街がどよめく。スマホで動画を撮っている若い子もちらほらいる。おかっぱ金髪のキャラクターが魔法少女のような格好でステッキを振る映像が流れる。
「今ならここ、南区のみーんなにチャンスがあるよう!」
ああ、地域名を出して信憑性を図るタイプか。
「でもオ、莫大なお金がかかるんじゃないのオ?」
画面の中の、パグをデフォルメしたようなキャラクターがまた耳に残る声で言う。僕は宣伝に飽きてきて、缶コーヒーを買おうと自販機に向かう。
「だーいじょーぶ!」
「うわっ」
小さな自販機の宣伝画面にも同じ映像が流れている。大型ビジョンより一秒遅れてまるで輪唱のようだ。
「なんと月に行く条件はたったの二つだけ!」
「ふ、ふたつゥ~!?」
わざとらしい、と思いながら聞いてしまう自分がいる。
「いち、健康な男女。に、お掃除が得意なひと。だよ!」
「そ、掃除?」
僕は思わず反応する。街もまたざわめく。
「ではでは! 詳しくはホームページまで!」
ブッ、と宣伝は消え、普段の宣伝に切り替わった。
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