月面清掃大作戦

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「……まじかよ」  食料送れるなら救助おくってくれません? これからまずミキサーを探して、廃棄物を詰める。あんな屈強な男たちがやっていたことを一人でやれるのだろうか。  立ち上がり月面を見渡すと、確かに各国が置いていったゴミがちらほら見える。掃除屋の性分がうずき出すのも腹の底で感じる。 「……地球って、本当に青いんだな」  ごつごつした月面に足をつけ、近くのネジを拾いながら呟く。順応は早ければ早いほどいいと、転職して身体は勘づいている。 「ありがとう」 「――え?」  右の耳元で聞こえた気がした。振り返ると、ぴょーんと薄い影が飛んでいった。ん? なんだ? よく分からないが、通信のバグだろうか。とりあえず掃除を始めようと足元をさらう。 「……あれ?」  しばらくして、両手でゴミを集め掃除できていることに僕は気付く。不思議なことに、完治していなかったはずの右腕は、ぶんぶん回しても支障がないほどふわりと軽くなっていた。 ――原因不明と言いたいところですが……  医者の声を思い出す。 ――かかかか肩にねねねえ、うううううささささぎぎぎぎねねねね、乗ってててるるかららららあああ、いいい一緒にいいいい、つつつ連れていってあげてねええええ  続いて部長の声を思い出す。肩に、うさぎ、一緒に連れて行く?原因不明? もしかして急に右腕が重くなったのは……いやいやあり得ない、ないない。僕はよぎった考えを首を振って散らした。とにかく今は地球に帰ることを考えなければ。のんきにお祭り騒ぎをしている本社の人間を恨めしく思うのもつかの間、僕は無心で月面掃除を再開していた。
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