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「いやあ久野さん、お手柄ですねえ」
会社の月面着陸成功パーティーにて、人事部係長はサンバをおどる宇宙開発部長に声をかける。
「まあ宇宙開発部あってこその成功でしたな」
「いかにも! あっはっはっは」
「はっはっは」
実は久野が有給病欠をしている間、月のクレーターが消えてしまい関係者の間で密かに問題になっていたのだ。この会社の宇宙開発部も例外ではなく、部長が観測チームと会議していた。
「部長! 部長!」
そこへ事務員の綿村が飛び込んできた。
「なんだ騒々しい」
「い、いま私の脳内に直接語りかけられてて!」
「……お前はなにをいってるんだ」
「いいから私の手を握ってください!」
「はあ?!」
「早くしてください!」
男同士手を握り合う様など美しいものではないと部長は思ったが勢いに押されて渋々綿村の手を握った。
【ああ、やっとですか。初めまして、私は月の守り神・ウサギサンです】
「ひええっ」
ヒョロイ声が出てしまった部長を会議に出ていた社員はわははと笑った。元々ひょうきんな性格だ、これまた演技だろうと。
【おや信じていただけてませんね、皆さん手を繋いでください。ああ、綿村さんは離しちゃダメですよ。あなたがいないと私の声が届きません】
「皆! 輪になれ!」
「部長~いい加減にしてくださいよお」
「まったくお茶目なんだから」
口々に茶化しながらもノリの良い宇宙開発部の面々は手を繋ぎ、脳内に直接流れてくるウサギサンの声に「ひょええ」と間抜けな驚きを隠せない。
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