15 光斗の相手

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 顎を引いて、上目がちに相手を見つめて言う。照れくさかったから、あえて素っ気なく告げた。けれど頬は赤くなり始めている。 「でも、俺ばっかり気持ちよくなってさ、高梨さんは、……その、毎回、自分には何もしないじゃない」 「うん。そうだね」 「……なんでですか?」  陽斗の問いに、高梨が目を瞬かせた。 「もしかして、俺に気を遣ってくれてる? 発情していないのに、襲いかかったらフェアじゃないとか。契約期間中は治療に専念すべきだとか。あ、それとも、フェロモン出てない俺には、あんまり興味ないとか?」  思いつくままに口にすると、相手は目を丸くして聞いていたが、やがて口に手をあててクスリと笑った。  そして手を伸ばして、陽斗の髪に触れてくる。耳の上の短い髪を愛おしそうに()いてささやいた。 「この可愛い頭は、本当に、色んなことをグルグル思い悩んでいるんだな」  できの悪い洗濯機みたいに言われて、陽斗はまた顔を赤くした。 「だって、もしも、したくなってるんだったら、抜かなきゃつらいだろうな、って思ったから」 「まあ、つらいことはたしかなんだけど」  髪の間に指先を忍ばせて、地肌を優しくこする。そうすると首筋にゾクリときた。  「でも、僕は最初に契約したときに言っただろう。『君の発情が欲しい』んだと」 「うん」 「僕はそれを待ってるんだよ。君が発情し、フェロモンをまき散らし、欲しい欲しいと涙を流し、挿れてくれと懇願するのをね。君のほうから、僕に襲いかかってくれるのを楽しみにしてるんだ。だからそれまでは、身体を繋げるのは絶対に我慢しようと決めてる。君からフェロモンが出ない限り、それは意志の強さで可能なようだし」  それは陽斗の予想していない理由だった。
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