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陽斗が腕から力を抜くと、高梨の瞳からも強さが消えた。そして甘さと切なさがその奥から表れる。
「でも、発情がこなくても、元気で思いやりのある君が好きだよ」
唇にかるく触れるだけのキスをする。
「……ん」
「僕のこと、十段階でどれくらい好き?」
何度も聞かれている質問をまたされる。
陽斗はちょっと考えて、蕩け始めた声で答えた。
「……きゅう」
最後のひとつが足りないのは、やはりどうしても崩すことのできない心の引っかかりがあるからだ。
こんなに真っ直ぐな愛を向けてくれる高梨に、本当ならば手を広げて自分も好きだと伝えるべきなのだろう。そうすれば、彼は満足する。
けれど、どうしてもブレーキがかかってしまう。
以前は機能不全オメガの矜持からこの人を遠ざけていたが、今はもっと違う理由で、高梨を受け入れるのが怖くなっている。
自分はこの人に愛情に応える資格があるのか。番になれるほどの価値ある人間なのか――。
わからなくて、素直になれなくて、だから言葉遊びのようなことをしてはぐらかしてしまうのだ。
高梨のことを本気で好きになってしまったから、彼が自分に失望する日がくるのが怖い。
「あと一段階だ。頑張ろう」
そんな陽斗の本心を見透かすように、高梨は苦笑しながら、アタッシュケースを引きよせた。
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