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16 発情してはいけない
◇◇◇
手の中の、スマホを見つめる。
画面には、今日の日付が表示されていた。十一月二十日。
契約終了の、一日前だ。
明日、高梨と交わした取引の最終日が訪れる。
それまでに発情しなければ、書面では、陽斗は解放されることになっている。
「――はぁ……」
盛大なため息をついて、画面を見おろした。しかしどれだけ凝視したところで事態が変わるわけではない。
陽斗は目をあげて、自分が今いる部屋を見回した。一ヶ月暮らした客室には、陽斗の私物がそこかしこに散らばっている。
それを沈んだ気持ちで、ひとつずつ集め始めた。ここにきたときに持ってきたディバッグに順につめこんでいく。
高梨は、陽斗にいつまでいてもいいよと言ってくれたけど、家では光斗が待っている。とりあえず契約終了と共に、一度帰宅するつもりだった。
そして、明日の朝には、光斗の番候補である津久井が帰国することになっている。津久井は光斗のために、ホテルのスイートルームを予約したそうだから、明日の夜は多分ふたりで一緒にすごすのだろう。
陽斗は明日から祖父母の残してくれた家で、光斗を送り出す準備をするつもりだった。米国で暮らす津久井と番になるのだから、光斗もきっと渡米しなければならなくなる。光斗はパスポートも持っていないから、手続きその他でこれから忙しくなる。それを手伝うことで淋しさが紛れればいいなと思いつつ荷物を片づけた。
夕闇せまる窓の外に目を移し、そろそろ夕食の準備もしなくてはと考える。最後の晩餐のメニューはもう決まっていた。
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