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1 最悪な出会い
一日の疲れがたまった身体を、つり革にぶらさげて、 窓の外にひろがる仲秋の夜景を眺める。
凪野陽斗は、さっきまで訪問していた人材派遣会社の担当女性の言葉を思い出し、大きくため息をついた。
『残念ながら、凪野さんに適合するトリマーの求人はもう一件もありません』
陽斗より少し年上の生真面目そうな女性は、申し訳なさそうにそう言った。
『凪野さんは、オメガでいらっしゃいますよね。やはりそれが、就職活動ではどうしても不利になってしまうんです』
その言葉に、陽斗は『そうですか』と返すことしかできなかった。
彼女と自分の間のテーブルにおかれたノートパソコンには、いくつもの社名が表示されていた。にもかかわらず自分を欲しがる企業はひとつもないという。それは彼女のせいではなかったし、もちろん陽斗が悪いわけでもなかった。
どうしようもないことだと分かっていながら、思い返せばひどく落ちこむ。
『オメガ保護法で守られているとはいえ、現実問題として、オメガを採用することを雇用主は躊躇します。なので採用条件を厳しくしてなるべくオメガはふるい落とすようにしているのが現状なんです』
陽斗はふたたびため息をつき、電車の窓にうつる自分の姿を眺めた。
今年二十一歳になる容姿は、まだ成人らしさが身についていなくてぱっと見は高校生のようだ。
短く整えた黒髪に、二重の大きな瞳。小さめの鼻に、少し厚みのある唇。見た目は中性的だが、性格は硬派なほうだと思う。脱げばそれなりに筋肉のある身体は、肉体労働のアルバイトで鍛えてもいる。けれど今日はさすがにぐったりと疲れていた。
午後七時をすぎた通勤電車には、帰宅途中の人々が乗っている。この中に自分と同じオメガ性の人間はどれくらいいるのだろう。
そう考えながら、車内の人間たちを観察する。
男と女、老人と若者。会社員に学生――。
オメガであることを示す太い首輪をさすりながら無意識に仲間を探す。
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