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「……陽斗、本当に行っちゃうんだね」
「あぁ、行くよ。今日で春花ともお別れだな」
その言葉に何も答えられず、私達の間に沈黙が流れる。駅まであともう少し……着いたら陽斗とお別れの時がくる。私はまだ、その事を信じられないでいた。
今日、私の幼馴染がここから去っていく。自分の夢に向けて、進み出すために。
”俺は将来、プロの歌手になる。そのために、俺は東京に行く。”
少し前にそう言っていた陽斗は、すごく真剣で本気で頑張ろうとしているのが伝わってきた。上を見上げる陽斗の目は輝いていて、その先には夢が見えているのだと思った。
……あの時から、応援したいって強く思ったのにいざ陽斗がいなくなるっていう状況になると、いかないでって言いたくなりそうになる。どうしてかな、何でこんなにも苦しいんだろう。
「……一人で東京行くなんて大変かもしれないけど、頑張ってね!
私、ずっと陽斗のこと、応援してるから」
「……春花、何泣いてるんだよ」
「えっ?」
自分の頬に手をやると、涙が流れていた。私、いつの間に泣いてたんだろう……今頃、視界がぼやけていることに気がつく。
「あれ?本当だ……目に何か入っちゃったのかな?」
あはは、と笑いながら目をこする。すると、陽斗は立ち止まり、私の手を掴んだ。
「我慢するなよ……本当はお前、俺に行ってほしくないんだろ?」
陽斗の言葉が胸に刺さる。どうしてすぐ、分かっちゃうのかな……何か恥ずかしい。
「図星だったみたいだな。まぁ、こうなるだろうと思ってたけど」
陽斗はそう言いながら、私に優しい表情を向ける。その表情を直視できず、私は思わず下を向いてしまった。
「……なぁ、春花。
自分にとって大事な人とずっと一緒にいるためには、何が1番必要だと思うか?」
突然の陽斗からの質問に、私は顔を上げる。
「えっ……お互いを信じる事、かな?」
「違う。
確かにそれも大切なことかもしれない。
けど1番大切なのは……」
陽斗は一度目を閉じて、そして私の方を見る。
「その人に対しての気持ちとその人との思い出を忘れない事だ」
その言葉に思わず目を見開いた。
「たとえ、傍にいなくても気持ちと思い出さえ心の中にあるだけで、そこに相手がいるんだって分かる。
だから、会えなくてもお前の中に俺はいる。
俺はいなくなったりしない。
だから、安心しろよ。
それにちゃんと、また会いに来るから」
私の中に、陽斗がいる……
胸に手を当てて今までの思い出を思い返してみると、心が温かくなった。
「……うん、そうだね……ありがとう」
陽斗は私が苦しんでいる時、いつも手を差し伸べてくれた。現に今も助けられた。
私にとって陽斗は救世主であり、私の太陽だ。今までの思い出なんて数え切れないほど、陽斗との時間を有意義に過ごしてきた。
どんな時でも私の背中を押してくれる……
それが、陽斗らしくてまた涙が出そうになった。
「ここから先は俺一人で行く。
今まで一緒にいてくれてありがとな。
お前がこれまでくれたもの、一生大事にする。春花も、頑張れよ」
「……分かった、私の方こそありがとう。
私も、陽斗に負けないように頑張るね。
あと、これ……手紙書いたの!
良かったら読んでほしい」
震える手で、手紙を差し出した。私の姿に陽斗はふっと笑って、私から手紙を受け取った。
「おう、ありがとう。
ちゃんと手紙読むから。
じゃあ……またな春花」
陽斗は私の頭を撫でてから、私に背を向けて歩き出す。
今まで彼がくれたものは、形の無いものだった。手に取ることも出来ない、目に見えないもの。それは確かにもう二度と見ることは出来ないけれど、この先無くなることはない。
陽斗がくれた、たくさんの思い出。私は一生忘れない。君と過ごした日々はずっと私が大事に持ってる。
その思い出がいつか、笑って話せるように
今はただただ、歩く君の姿を見ながら私の心の奥底に閉まっておこう。
そしていつかまた、君に会えますように。
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