1、毎週日曜日は社会ゴミの日です

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1、毎週日曜日は社会ゴミの日です

 桜が満開になりかけた頃斎藤一(ハジメ)は新しいリボンを首元まで締めて通学路を歩いていた。 まだ少し肌寒いので、制服の上に桃色のパーカーを羽織って桜の満開を彷彿させる装いを表現しているのだそうだ。 通学路と行っても都市内にある国立総合化学高等学校という最近作られた学校で、技術者の父、斎藤智浩(トモヒロ)に勧められて入った学校でわからない事があった時に教えてあげられるし電車で2駅程で着く為安心だからという父親特有の我儘に渋々付き合って入学した学校だった。 今日は高校三年生に進級するための手続きや今年度の授業内容や実習内容についてのオリエンテーションの為に学校へ向かっている。 ハジメの通っている学校への道はさくら通りとも呼ばれ桜の木が多く並んでいる。 桜を眺める為顔を上げると桜の花の隙間から上空に無数の黒い円盤のようなものが旋回していた。 ―  オリエンテーションが終わるとハジメは親友の五十崎智恵(イソザキチエ)と今倉英雄(イマクラヒデオ)の3人で買い物をしに商業ビルのある方へ向かった。 「ハジメ、やっぱりピンクのパーカーは派手だね、もう大人なんだからワシのように大人らしい格好をした方がいいよ」 親友の智恵は背も175センチと男子顔負けの長身で真っ直ぐな黒髪のいかにもモデルのような格好だが、本人曰くお洒落には興味がないらしい。 元々の素材が良い為お洒落をする必要が無いというのが本当の所だろうが、髪が長いのも美容室に行きたくないからで、足を締め付けるからと靴下も穿かずシャツも出しっ放し、襟のリボンもだらしなくぶら下がっているだけだ。 それでもお洒落に見えるのが素材の良さを物語っている。 そんな智恵は少しでもハジメが少しでもめかしこむとこうやって言葉で悪戯をする。 「智恵は大人らしいというより無頓着なだけでしょう?私は年相応のお洒落をしているだけなんだからね!智恵こそ自分の事ワシっていうのそろそろやめなきゃ大人になってから大変だよ?」 「仕方ないだろう?おばあちゃんの口癖がうつったんだから。今更変えるのも反って恥ずかしいんだよ」 「髪だって伸ばしっ放しにしてないで私みたいにポニーテールとかやってみたらどうなの?」 「えぇ?そんな子供っぽい髪形ワシには似合わないよ」 ハジメと智恵が二人でじゃれ合っている少し後ろに今倉英雄が大きなバッグパックとショルダーバッグを肩から下げてげんなりした顔をしている。 「ちょっと智恵ちゃん!このリュック重すぎだよ!今日は何入れて来てるのさ!」 「部室から作りかけの生ごみ処理機を持ってきているからかな、まだ作りかけなんだから落とさないでよ?」 「ヒーローはいつも智恵の荷物を持ってあげて優しいよね」 「よっ、さっすがヒーロー」 「持たされてるんだよ!調子いい時だけそうやって茶化さないでよもう・・・」 今倉英雄は親に<えいゆう>になって欲しいという想いから英雄と名付けられたようで、今時少し古臭いという本人の為にヒーローと呼ばれている。 特に目立った特徴も無く、男性とも女性とも言えない中性的な面持で中学時代はからかわれる事が多かったと言う。 大人しい性格で気が弱い為クラスで溶け込めていない所に付け込んで智恵が部活設立の為に1年生の夏に無理矢理勧誘したのが最初の出会いだった。 三人は同じ部活の仲間で未だ誰も成し遂げられていない大型二足歩行のロボットを作るという大義名分を掲げてロボット研究部を設立していた。 しかし部長である智恵がいつも目先の役立つものを作る為これまでロボットらしいものを作った事が無い。 「そういえば今日の朝にね、空飛ぶ黒い円盤のようなものが沢山飛んでるのを見たんだけど、今日って何かイベントをやっているのかな?」 「ハジメちゃん、それはきっと宇宙からの侵略者だよ!早くロボットを作って地球を守らなきゃ!」 「円盤を飛ばすのはまだむりでしょ?きっとドローンだよ」 「じゃあやっぱり何かのイベントだったのかな?」 他愛もない会話をしながら大きなスクランブル交差点に着いた時、周囲のビルに備え付けられたモニターが暗転し、軍服を着た二人が映し出された。 『日本の皆さんこんにちわ』 そう話始めた軍服の女性はまだ若く20代前半のような風貌だが隣の大きな男よりも中心に映っている事から階級は上なのだろうか。 二人の後ろには全身、頭まで黒いタイツを被ったような真っ黒な人が隙間なくびっしりと並んでいる。 ビルのモニター以外にもハジメや智恵、ヒーローの携帯電話にも映像が表示されていて明らかに異常であることがわかる。 『私達はたった今この国を占拠しました。 先の災害から平和を取り戻したのにも関わらずあなた達はその平和を維持することができませんでした。 なぜでしょうか? それは、一人一人が我儘で、人の不幸を顧みず、理性を保てずに思いのままに行動しているからです。 ですが、そういった人が悪いわけではないのです。 親の指導や義務教育の過程でしっかりとした教育を受けてこなかった事が原因なのです。 私たちは進化の過程で知性を得ることができました。 それは動物から知的生命体へと進化した地球上で唯一の存在と言えるでしょう。 ですが見てください。 知性を手に入れたのに理性を得られず中途半端な知的生命体に満ち溢れています。 私たちは選別していかなければならない。 そのような中途半端な存在は人類としての老廃物、いわゆるゴミとして処分し、真の知的生命体として次の進化をする時なのです! つきましては今週から毎週日曜日を〈社会のゴミの日〉として理性を持たない<ゴミ>を回収させて頂きます。 もちろん私たちは知性と理性を持ち合わせているので直ぐに処分などは行いません。 教育を施し、理性について学ばせ、知的生命体になる事が出来れば俗世に戻します。 私たちは既にあなた方を監視しています。 今からでも遅くはありません。 自ら意識して理性について学びゴミとして回収されないよう励んでください。 以上』 「なんなの、これ……」 ハジメや智恵、ヒーローもビルのモニターにくぎ付けになり身動きが取れなかった。 「社会のゴミの日だって、ちょっとおかしいんじゃない?」 辺りが静まり返ったと感じたのも束の間、大人達が慌てだし、叫び声や悲鳴で空気が震える。 声を上げて走り出し、皆建物の中に我先に入って行く。 「僕らも逃げた方がいいんじゃない?」 「お父さんなら何か知ってるかもしれない、私、家に帰って聞いてみるね!」 そう言ってハジメが駅の方へ駆け出した。 「面白い事がわかったらワシらにも連絡入れてよ!」 ハジメの父智浩は政府の治安維持部隊に所属していて朝早くに出勤して夕方前には家に帰っている事が多い。 治安維持部隊といっても街を見回ったりするわけではなく技術者として配属されている。 「お母さんただいま!お父さんはもう帰ってる?」 ハジメの母斎藤好美はどちらかというと可愛らしいハジメと対象的で知的な落ち着いた顔をしている。 「あぁ!ハジメ!よかった!」 家に帰ると好美が強くハジメを抱きしめた。 「お母さん苦しい!どうしたの?」 「さっきの見たでしょう?あの後お父さんから連絡が来て任務で暫く帰らないって」 ハジメは肩を震わす好美と抱き合い先程の放送が冗談ではないと悟った。 (これから何が始まるっていうの?)
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