願うからこそ贈るもの

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 わたしはかつて潔子の幸せを願っていた。  もちろん、娘たる陽子の幸せも願っていた。  ならば、その娘である美雪の幸せ願うのは当然のことだ。  けれど美雪の幸は、半年ほどしか保たなかった。  なぜなら、なんと美雪の夫は、彼女が妊娠したあと、よそに女を作ったのである。商売女ではない。会社の後輩だった。  潔子の夫のように暴力的でもなく。陽子の夫のように多大な借金をこさえるわけもなかったというのに、なんということか。騙された。美雪の夫は、気持ちも下半身も緩いクズだったのだ。  それでも、まだ美雪にわからないようにすれば救いもあるものの、脇が甘いというか、根拠のない自信でもあったのか、それとももう美雪などどうでもいいというのか。  隠す気もない、さらには悪びれたようもない態度に、美雪は荒れに荒れた。  妊娠中の感情の不安定さもそれに拍車をかけ、男が帰ってくれば、怒号と罵声の日々が繰り返された。  そして、その日。  美雪はついにわたしを手に取ったのだ。  結婚式で着た、純白のウェディングドレス。セミオーダーだと嬉しそうに語っていたそれを、美雪はわたしでずたずたに切り裂いた。  布を引き裂くような無様な音はしない。すうっと通った刃は、光沢を放っていた布を端切れに以下に貶めた。  そして、美雪はその勢いそのままに、二人で写った写真にもわたしの刃をいれた。    夫である男の、首に、わたしの刃がかかる。  じゃきんっ。  それは、何度も、何度も何度も何度も、聞いてきた音だった。    翌日、夫の訃報をもたらしたのは警察であった。  かの男は、昨晩、浮気相手と歩いていたとき、階段から落ちて首を折って死んだという。  事故か、それとも痴情のもつれか。警察は何やら色々話していたが、わたしには関係ないことだ。  はははははははは。  ざまあみろ。ざまあみろ。  ああ、今度もやっと終わる。終わらせることができた。安堵と充足感でわたしはいっぱいになる。  わたしは、二百年ほど前に彼女たちの家系に縁づき、子々孫々安寧を贈ると約束したーー断ち切り鋏である。
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