新説・北風と太陽

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「おかしい、こんなはずでは」太陽はいぶかる。 「残念だったね、太陽さん。」北風は皮肉を込めて言う。 「次は僕の番だ」  北風は、先ほどの女性と同じような人をターゲットとして見つけた。彼のやり方は太陽と真逆である。つまり、経済的な大不況を彼女ひとりにぶつけたのだ。  あわれなその女性は、あっという間に生活苦に陥り、やむを得ず夜の街で性産業を始めた。つまり、服を脱ぎ裸になったのである。 「今回は僕の勝ちだね」北風は勝ち誇る。 「ずるいよ、そんな岡村隆史みたいな発想。」太陽は不満げだ。 「負け惜しみはいいっこなしだよ。これで前回の借りは返したからね。」北風はにべもない。 「おかしい、時代が僕に合わなくなったのか。あるいは、条件が悪かったのか。もう一度、前回と同じ条件で勝負してくれないか。今度は男性がターゲットだ」太陽はばつが悪そうに提案する。 「まあいいだろう、じゃあこれで完全決着だ」と北風は早速ひとりの男性に狙いを定める。  先ほどの女性と同じように、北風はその男性を経済的苦境に追い込む。するとその男性は、電気代の支払いも滞るようにあり、空調も効かない部屋の中でガタガタと寒さに耐えるようになった。むろん、手持ちの服は肌身離さず着込んだままだ。 「あれ、おかしいな、これじゃ以前の勝負の時とまったく同じだ」北風は頭をかく。  しめしめと、太陽は勢いこむ。 「よし見てろよ、僕の番だ」  彼は、同じような別の男性に大金を与えた。その彼は、先ほどの女性と同じように、大量に食べ、飲み、太った。 「ああ、だめだ、彼も太ってしまった」太陽は嘆く。  しかし、意外なことが起こった。懐に余裕ができた彼は、夜の街に出かけた。そしてその一角にあるいかがわしい店に入ると、服を脱ぎ、裸になったのである。  ぷよぷよのお腹も、たるんだ太ももも、気にかける様子もない。  彼は頻繁にそんな街にでかけ、頻繁に裸になった。  そんな彼の様子を見つめる太陽と北風の目に、ある日、さらに不思議な光景があらわれた。  太り、みにくい裸になったその男がいる、いかがわしい店の部屋の中に、一人の女性がこれまた裸で寝そべっていた。ここまでは、何度か見た光景である。  しかしその日男と一緒にいた女性は、なんと先日、北風のせいで貧乏になってしまったあの女性であった。 「おや、僕はもう何が何だかわからなくなってしまったぞ」太陽が言う。 「僕もだよ。どうしてこの2人が同じ場所に、同じ裸でいるんだろう?」北風も頭をひねる。 「条件は真逆だったのに、どうして同じ結果になってしまったのか」  同じ場所にいるからといって、立場が違うのだから、これは当然といえば当然の状況である。  しかし両者の間にたちふさがる「違い」という壁は、目には見えない。そして現代の社会には、こういった見えない壁にわけられた人々が、皆いっしょくたに放り込まれている。  そんな見えない壁というのは、時としてとても都合が良い。見たくない人には、見ないこともできるし、見ないふりもできるのだから。 (完)
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