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子供の成長は早いよね
◇◇◇
自分が魔王の娘に転生させられたのだと知って、一週間が経った。
最初は抵抗があったものの、慣れてしまえば動作もない。泣けば母乳を与えられる、お粗相をすればオムツを新しいものに交換される……。なんでもやってくれる、なんとも幸福な日々を味わっていた。
だって、勇者ってのは苦境からの成り上がり的な? そんなイメージがあるからその設定をあの神々も重視しちゃってて。こんな風に人から……まぁ魔王だけど、人から愛されるって今までなかったわけよ。
転生回数三十回中、二十回は奴隷か捨て子スタートだった。そんで残りの十回が病弱、嫌われ設定だったかな。
「こんな幸せ感じちゃっていいわけ? 魔族に転生してくれてありがとう神様!!」
「ほう、今日はよく喋る。これは我が名を呼ぶ日も近いだろう」
母からの願いを聞いてからは、呼吸をする頻度で魔王リリベルの名を呼ぶことで、魔王に次ぐ権力を得た私はこの魔王城……いや、魔界すべてが家来とも呼べるほどの発言力を手にしていたのだ。
という風に、赤ちゃんライフを満喫していた元勇者、レイティア… 現在にして魔王の愛娘セシリアは、愛情をたっぷりと注がれすくすくと元気に成長していった。
◇◇◇
──七年後。
ドレッサーの前に座り髪を梳かれている私は、ちゃっかり魔王の娘セシリアとして日々を過ごしていた。
だってこの生活幸せ過ぎるんだもん。元勇者? それ何語? レイティア? 誰、誰、誰? 怖い、怖い。
「セシリア様、どうかされましたか?」
櫛を持つ手を止めて、心配そうにこちらを見るのは──ルルム。
ダークエルフのメイドで、私が幼いころからのお世話係だ。尖った耳が特徴で、透き通るような白い肌に金色の瞳。私に引けを取らない美貌で小首をかしげる行為に、同性ながら不覚にもくらりときた。くそ可愛いいんだけど。ホント。
「ううん、なんでもないよ。ルルムの手がすっごく気持ちいいから、ぼぅーとしちゃっただけ!」
鏡越しに映るルルムへと満面の笑みで答える。これぞ我こそが扱える奥義『天使の微笑み(エンジェル・スマイル)』。それはセシリアのつやっつやな美しい金髪と、瑠璃紺色の大きな瞳を最大限に使った技だ。
「そう言っていただけると、私としても嬉しい限りです。そういえばセシリア様、本日のご予定なのですが少々変更がありまして……」
「どうしたの、ルルム? なにかあった?」
「はい。リリベル様のご子息様が予定より早く魔王城へご帰還されまして……。セシリア様には兄にあたる方々です。小さい頃、一度だけお会いしていますが、覚えていらっしゃいませんか?」
「……ごめんなさい。覚えていないわ」
いやいや、私って兄弟いたの!? それもお兄ちゃん!? 知らない、知らない。初耳なんですけど。
ただルルムの言った『方々』が妙に気になり尋ねる。
「ねぇ、ルルム。今『方々』と言ったけど、兄様は何人いるの?」
「お二人です、双子でいらっしゃいます。どちらも、セシリア様に対しては魔族とは思えぬほど御優しい方々ですよ。一日早くお生まれになったアラン様と、その後すぐにお生まれになったセオ様です。お二人ともセシリア様にお会いできる日を今か今かと待ちわびておいでだと聞いております」
あぁ、だからルルムは今日、珍しく私の髪を巻いているのか。いつもならひと月に一度、髪質が痛むからとお願いしてもやってはくれないのに。
「それじゃあとびっきり可愛くしてね! 兄様達がうんと驚くくらいに!」
「承知しました。では髪飾りはどれにいたしましょう?」
なんかこれザ・女の子って会話でいいわー。好きだわ、ホント。髪飾り選んだりとか? 口紅とかつけちゃう? みたいな。
こんな会話ずっと誰かとしたかったんだよね、勇者の時は強くなることに必死だったから。
……おっといけない。嫌なものを思い出していたようだ。
数十分後、くるりと巻かれた金糸の髪に小さな花飾りが添えられている。頭上には、魔族の瞳の象徴である赤い宝石をあしらったカチューシャ。
どうだと言わんばかりの満足げな表情でルルムが鏡越しに映っていた。
「ありがとうルルム!! すごく、すっごーく可愛いよ!」
「喜んでいただけて光栄です」
では、と差し出されたルルムの手を取り部屋を出る。向かう先は魔王最上部、玉座の間。
覚えのない兄達は優しいとルルムは言っていたが、一体どんな兄達がそこに待ち受けているのだろうか。私は肉親の初対面に心躍らせていたのであった。
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