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兄様と……ご対面ですよね?
──魔王城最上部、玉座の間。
中へ入るといろいろな種族の魔族が膝をつき、こちらへ頭を下げていた。左から蜥蜴族、精霊族、吸血鬼族、餓鬼族。
……皆一様にビビりまくっていた。ゴブリンなんてガッタガタに震えてるしさ… そんな怖いかね、魔王の娘である私が。正直、ほんとちょっとだけ、ちょっとだけだよ? …嬉しいよね、ドヤ顔だよね。
ひとまずやんわりと微笑み、軽く会釈しながら奥へと続く朱殷色の絨毯を進む。そして母である魔王リリベルの前であざとく……可愛らしくドレスの裾を指でつまんでお辞儀。そして、くるりとドレスを翻して回り全身を見せる。
ほんと最後のターンは必要ないとは思うが、これをしないと母上うるさいからね。全身見たいんだってさ。
「ほう。化けたものだな、セシリアよ。さすが我が娘、とでも言っておこうか」
「ありがとうございます、母上」
母上は今日もご満悦であった。この親にしてこの子あり、とはこのことだ。美人から美人が産まれることは自然の摂理。リリベルは、白金色の美しい髪に深紅の切れ長な瞳。顔面だけで飯が食っていけそうなほど全てのパーツが整っていて、薄く開いた唇に赤い紅がはえる。ちなみに、オマケの邪魔な二本の角もはえてるよ!
魔王リリベルの手招きに頷いて近づくと、いつものように膝へと座らされる。この場所こそが私の定位置だ。
えっ? あのテーブルの椅子? あぁ、あれはただの飾りだよ、飾り。誰も座らないし、誰もそれには触れない。ツッコミなんてしたら殺されちゃうよ? 触らぬ神に祟りなしってね。
「よくぞ皆集まってくれた。本日我が息子であるアラン、セオが長きに亘る人間界の調査及び制圧から戻ってきた。さぁ二人とも出てくるがよい」
奥の扉が開きそちらへと向き直った魔族達が頭を垂れる。ただならぬヤバい気配を感じてリリベルにしがみつくと、どこか得意げな顔をして満足そうに骸骨へ命じた。
「もうよい。扉を閉めよ」
「……へ?」
……えぇぇ!? なんでこのタイミングで閉めちゃったの!? 感動の初対面だよね!? まだ兄様何一つ出てきてないんだけど!!??
「これでよい。今日はこれで充分だ」
いや、母上様なにが十分なん!!?? しかもなんで上機嫌なの!!??
しんと鎮まる部屋に動揺を隠しきれない魔族達。分かるよ、私も君達と同じ思いだから。この状況どうすんの、母上。
内心慌てているが、絶対に顔には出さずにこの現状の打開策を模索している最中、突如スケルトンを吹き飛ばすほどの勢いで扉が開く。
よってスケルトン五体──殉職。
「おいおい、クソババア!! なんで閉めやがったんだぁ、あぁ!?」
「こらこら、口の利き方には気を付けた方がいい。一応ああ見えても母親だ、きっと私達がここを離れていた何年かでボケだしてしまったんだろう……」
「うげぇー。老いって怖ぇー」
ずかずかと入ってきた見知らぬ二人に、耳元でリリベルの舌打ちが聞こえた。
「貴様らなど人間に殺されてくればいいものを……。セシリア、酷だとは思うがこやつらがお前の兄、アランとセオだ」
なんとか話の進行的に紹介はしてくれたものの、リリベルの表情はいかにも嫌々といったところ。
というか、息子ですよね? やっと帰ってきたって紹介してましたけど……そんな冷たい扱いあります? てかてか犠牲になったスケルトンは復活とかするよね!? するよね? え、しないの…? どうなの!?
──これが私の兄達との初対面。これこそがこの物語の始まりである。
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