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兄様とお花畑デート……のはずでした
アラン、セオと共に庭に出ると、そこには満開の黒薔薇が至る所で咲き乱れていた。
「これは思ったよりも絶景だ。ここまで綺麗に咲いているとはね」
「俺達が居た時より数が増えてんな、誰か植えたか?」
あっけにとられる兄様達に内心ドヤ顔で、表情は恥じらいながら答える。
「下手くそだけれど、私が植えたの。ルルムも教えてくれたし、手伝ってくれてね……兄様は黒薔薇はお好き?」
「好き。大好き、俺は黒薔薇以外を花とは認めてない」
「好きに決まってる。この花の美しさがわからないやつなんて生きる価値がないよ」
セオめっちゃ食い気味に答えたなコイツ。てか、ブチ切れてます? え、情緒が怖いわっ! まばたきしないの? 真顔でガン見してんなって!! 薔薇枯れちゃうよストレスで!
アランはさ、すっごい嬉しいこと言ってくれてんの。ホント、毎日水やりして育てた者にしてみれば嬉しい限りなんだけど……さっきから踏んでんのよ。
なんなの? 踏むのが趣味かドジっ子設定なのか!? がっつりお前の靴底で黒薔薇しなっしなになってんだけど!!!
「そ、そうなんだ。兄様が喜んでくれたらセシリアも嬉しいです! あのね、兄様もう一つ案内したい場所があるの」
そう言って二人の手を引き奥へと進む。黒薔薇エリアを抜けた先にぽつりと小さな建物が建っていた。
「セシリア、なんだいここは?」
「こんな建物、前まではなかっただろ」
「ここは私が母上に作ってもらった『離れ』なの。とは言っても植物を育てるためだけのものなのだけれど、きっと兄様達に気に入ってもらえると思う」
さぁ中へ、と兄様達の背中を押す。ここは私だけの秘密の場所であり秘密基地のようなもの。多くいるメイドの中でも入れたのはルルムだけ。まだ完成していないのでリリベルにも見せたことのない場所だ。
扉を開けると一斉に蝶が飛び交い、甘い花の蜜の匂いが鼻を通る。そこには黒薔薇とは比べ物にならないくらいの色鮮やかな花々が誇らしげに咲いていた。
そういやセオは黒薔薇以外は花に認めないと言ったけど……これを見てなんて答えるのだろうか。
ちょっと待って、考えただけでウケる。え、今どんな顔してんの? すっげぇ見たいんだけど!
「……花が咲く限り、人は笑顔になれる」
だっさい!! ド下手ポエマーじゃんかよ!! 誰でも書けそうな作品書いてるやつだわ!
めっちゃ感銘受けてますって顔してるけど、お前ついさっき『黒薔薇以外、花とは認めねぇ』とか格好つけてほざいてた奴ぅ!! その変わり様どうしたよ。
「すごいね……息を呑んじゃったよ」
アラン兄様……それはこっちのセリフです! なに? なにに息を呑んでんの? 花を見ろ! お前が立ってんの花壇、花壇ね! 分かる!? も、もしかして踏むのが趣味なの? サディストなの?
「アラン兄様……その、足が」
「あぁ!! ごめんね!! 悪気はなかったんだ……私は、人より足が長いから」
えっと、自慢かな……死刑決定ですね、これは。イケメンだからまだ許す……いや、許せるか!! 足の長さが何の理由になる!? こちとら必死に育てたお花踏まれてんだぞ!?
ここで何故私が、彼らを招き入れたのかを説明しよう。この奥には秘密の花園、そう名付けて『禁断の揺りかご』を設けているのだ。
用途は本来ならリリベルへの媚売り……ゴホン、親子水入らずの時間を過ごすためであったが、イケメン前にして使わないとか損じゃない? 膝枕とかさ、添い寝とかさ。あるじゃん、そういうシチュエーション。うん、『下心』ですね。それしかないですね。
だから兄様達を連れて来たってのに……ほれ皆の者、想像してみ?
※この妄想はフィクションです。実際の人物、魔界、物語の進行などには、いっさい関係ありません。
【セオの場合】
「セオ兄様、今日は天気がいいですね」
「あぁそうだな。この天から降り注ぐ光がいつまでも、俺達を幸せな未来へと導いてくれるだろう」
──はい、うざい。そもそもキャラ違うくね? そうじゃないだろ! もっとこうさ、ガツンと来れないかな……例えば『ダメです、兄様……私達兄妹ですのよ』とかできない? こっちはさ、そう簡単にときめかない年齢なの。余裕でオバサン領域に両足突っ込んでんだっつーの。というか、ポエマーとか一周回って……きっしょ。
【アランの場合】
「んん、アラン兄様……?」
「やっと起きたね。こんなところで寝ていては風邪を引くよ。ほら、部屋へ戻ろう」
──いいよ、スタートは百点。眠り姫を起こすには王子様の目覚めのチッス……と言いたいところなんですが、なぜ靴が泥まみれなんでしょうか。お前さ、通路って言葉知ってる? 部屋入って真っ直ぐ進みゃあここまで来れるんだけど、かなり迂回したようだな。どんだけ花壇歩きたいねん!! 病気か!? 爽やかな顔してお前はなんか踏まないと歩けんのかーいっ!!
イケメンとウハウハな未来が……どんどんヒヤヒヤな未来へと変わっていく。
──前言撤回。こいつらにあの禁断の揺りかごを見せてはならない。
「どうかしたかい? セシリア」
「ずっと黙ってっけど……気分でも悪いか?」
「ごめんなさい、ぼーっとしちゃってたみたい。あのね、兄様お願いがあるの。ここはね、私がいいよって言わないと入っちゃダメ」
私の切実な願いが伝わったのか、兄様達は快く承諾してくれた。二人とも、セシリアの言うことは必ず聞いてくれるみたい。私ってばめっちゃ愛されてる。
「じゃあ兄様、お約束しましょう! 小指を出してくださいますか?」
「……小指、かい?」
「なんかの、儀式か?」
ピンと立てた小指を不思議そうに見つめるアランとセオ。あ、こいつら知らないのかな。まぁリリベルなら教えないだろうな、やってるとこ想像つかないし。
「ええ。儀式というより、おまじないのようなものです。これは『指きり』といって、もし兄様が約束を破ったら……針千本飲むことになっちゃうの。だから、セシリアとのお約束は必ず守ってくださいね?」
私はにっこりと笑って兄様達の目の前に、短い小指を見せつけるように差し出した。
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