指きりって知ってます?

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指きりって知ってます?

 だがその小指は一向に交わる気配はない。 「あの、兄様指きりをしたいのですが……」  なぜか顔を青くしたセオとアランが、手を握ったり開いたりさせて自身の手を見つめていた。  ん? 私おかしなこと言ったかな? 言ってないよね? 「あ、ああ。指きりね。……わかったよ、そこまでセシリアが言うなら」 「そう、だな……セシリアの頼みだ。しないわけねぇよな」  どしたのこいつら? なんで今から敵陣に攻め入ります、みたいな怖い顔してんの。指きりって子供でもやるじゃん。なにを躊躇して……わ、わかったぞ!   こいつらセシリアの可愛らしい小指を握れることに、感極まって緊張してんだな。くっそ初心(うぶ)じゃん! 好きな子の手は握れませんってわけね。 「簡単なおまじないなので緊張しないで、兄様。どちらが先かはお二人でお決めになってください」  ひそひそと話し始める兄二人を、鼻の下を伸ばしきった顔で眺める。  ほれほれ、どちらが先にこのかわゆい小指を厭らしく絡めとるのだ!   ぐっ……イケメン二人に最高のシチュエーションがここできやがったか!!    だが、アランの放った言葉は私が予想だにしていないものだったのだ。 「話はついたよ。セシリア、後ろを向いてくれるかい?」  はて? とは思ったもののセオに体を無理やり反転させられ、オマケの頭ポンポンに疑問は消え失せていた。脳内に広がるのはお花畑、そして兄二人との禁断の指きりげんまん。  鼻血出ちゃうよ……ダメだよ! セオもっと撫でてっ!!  と、興奮状態の私には背を向けた先で兄達がなにを話しているかは、辛うじてとしか聞き取れなかったが──  ……なにやら、金属同士が擦れる音。どこかで聞いたことのあるような……あ、これ剣を抜く音にそっくり。 「じゃあ同じタイミングで……カウントはセオお願い」 「アラン、やるぞ。3……2……1!!……ぐうぅっつ!!」 「んんぐっぅ!!」 ──ストップ。お前らさ、後ろでなにやってる?  冷や汗を浮かべ、どうか予想が外れるようにと願いゆっくりと振り返った。  そして思わず言葉を失った。セオと足元に飛び散る鮮血の赤。生暖かさを含んだ酸っぱいような、鉄くさい臭いがあたりに広がっている。互いに血を垂らした剣を片手に、脂汗を滲ませる兄達は微笑んだ。 「み……見ちゃダメだって、言ったのに……。はい、これが私の忠実の証だ」 「ほらよ。大事に、してくれよな」  へぇー、イケメンって小指も綺麗なんだねー……って違う、違う!! グロすぎてモザイク入るやつだぞコレ!! きっっしょ!! ゲ〇吐きそうなんですけど!! ヒロインになにやっちゃってくれてんのお前ら!? やってくれたなオイ!! お前ら、私のトキメキを踏みにじってくれたなオイ!!??  てかどうしたらいいの……なんでこうなったの? どういう解釈しちゃった? え、もう無理だわ。  そして、私の脳内は容量以上の情報を一気に処理しようとしたわけで。結果、パンクした。魔王城全体に響き渡る悲鳴に気付いたルルムが駆け付けるまで、そう時間は掛からなかったらしい。 ◇◇◇ 「──で、我が息子の小指を切り落とさせたそうじゃないか。なぜか理由を聞いてやらんこともない」  てなわけで気絶した私はあの後すぐに目覚めて、今はリリベルからお叱りを食らっています。ただ一つ腑に落ちないんですが……どうして私が加害者になっているんでしょう? 「あの……指きりをしたかっただけなんです。気付いたらあんなことになっていたっていうか」  待て待て待て。これはまるで罪人のセリフではないか? 言い換えるとすれば……  『よりを戻したかっただけなんです。気付いたら彼女が横たわっていて……』  一緒だわ。もうパクリかってくらい。これではまずいぞ、どうにか誤解を解かなければ。 「母上、ごめんなさい! こんなことになるなんて思ってなかったんです!」  間違えちゃったよ! 罪人とゼロ距離まで接近しちゃったよ!   セオとアランはなんだかんだ言っても魔王リリベルの息子だ。次期魔王候補であり絶対的な地位、そして支配力を持っている。それほどの者の指を切り落とし、それがまさか妹だと魔界中に知れれば恥さらしもいいところだろう。  よくて魔界追放、悪くて死罪。罪状はこの二択に絞られる。 「──だがやってしまったことの取り返しはつかない。セシリアには罰を与えねばならぬ。罰として……今日は一歩たりとも部屋から出るのを禁ずる。よいな?」 「え……わ、わかりました母上」  リリベルの下した罰は思ったよりも、というか考えが及ばないほど軽いものであった。どうやら最悪の事態、死罪は免れたようだ。 今日は言われた通りおとなしく部屋に籠っておこう。……案外、嫌いじゃないし。逆に静かに過ごせるじゃん、ルルムとお人形遊びでもしよーっと。  玉座の間を出ようとした時、背中にリリベルの制止の声が響く。 「待てセシリア、これを持ってゆけ。部屋で開けるいい」    投げられた小さな、片手サイズの木箱をなんとか必死で受け取った。だって落としでもして、やっぱり死罪とか言われたら最悪だもの。  最後にリリベルに一礼をして自室へと戻った私は、ベッドに腰掛け心の底からの溜め息が漏れ出る。 「あの馬鹿兄様達のおかげで今日は散々だったな……そうだ、この箱何が入っているのだろう?」  私はお菓子でも入ってたらいいのに、と軽いノリで開けてしまったことを全力で公開した。    そしてなにも答えずに、蓋を静かに閉じてドレッサーの引き出しを開ける。中にはこの箱とよく似た見知らぬ木箱が勝手に入れられていた。これに対してもあえてツッコまないでおこう。  どうしたもんか、心身ともに疲れてしまっているようだ。今日はルルムと人形遊びを予定していたが、そんな気分じゃなくなってしまった。悪いけど……断ろう。  これはルルムによる後日談であるが、私はその日、なにをしても起きないほど死んだように眠っていたという。 【 セシリアのアイテムボックス 】 ・リリベルの小指  Lv???   効果:未知数 ・アランの小指   Lv???   効果:未知数 ・セオの小指    Lv???   効果:未知数 ・純血のティアラ(髪飾り) Lv99   効果:セオからの贈り物。セオの強大な魔力が宿っており契約なしに魔人を召喚できる。 ・殺戮の捕食獣(クマさんのお人形)Lv45   効果:ルルムが魔力を込めて作ったぬいぐるみ。保持者の身の危険を察知すると巨大化し攻撃を開始する。
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